「大阪芸人は二度売れなくてはいけない」という言葉がある。大阪で芸人としての活動を始めた場合、まずは大阪の劇場やテレビ・ラジオを主戦場とすることになるため、そこで結果を出すことを求められる。

 しかし、大阪で積み上げた実績は、関西以外の地域には全く伝わらない。そのため、あるタイミングで東京に出ていって、全国ネットのテレビ番組などに出演することで、もう一度結果を出さなければいけないのだ。

 大阪でも東京でも、ライブやテレビに出るという意味では、やること自体が極端に変わるわけではない。しかし、市場が変わることで、求められていることが微妙に変わったりする。その違いに適応できるかどうかというのが、東京進出を成功させるための鍵となる。

 今の時代、大阪の笑いと東京の笑いにほとんど違いはない。だが、やはり風土の違いというのは多少あるような気がする。私の知る限り、大阪の若手向けの劇場は、良くも悪くも純粋なネタ至上主義、面白さ至上主義のようなところがある。芸人同士の激しい競争があり、その中でネタを磨き合い、センスを競い合う。

東京は「キャラ芸人」が多い

 東京のお笑いライブシーンでも基本は一緒なのだが、テレビなどのメディアとの距離が近い分だけ、キャラクター的な要素が求められやすいところがある。いわゆる「キャラ芸人」が多いのが東京の特徴だ。かつて千鳥のノブがオードリーの2人に対して「春日のような芸人は大阪からは出てこないと思う」と語っていたのが象徴的である。

 いわば、大阪はお笑いだけの真っ向勝負。東京はキャラクター、特技、人間性などの総合力の勝負。戦い方のルールが少しだけ変わるので、そこに適応しなければいけない。

 今回の上京組の中では、ギャグを得意とするソマオ・ミートボールは、最も東京に向いている芸風だという気がする。さや香は不仲コンビとして有名なので、その不仲ぶりをバラエティ番組の中でどうやって面白い形で生かせるか、というのが勝負の分かれ目になりそうだ。

 芸人が東京に進出するのは、その人の新しい魅力が引き出されるチャンスでもある。今回の上京芸人の中から次のスターが生まれることに期待している。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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