撮影/写真映像部・東川哲也
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 子どもを頭ごなしに叱り、考える機会を奪うのは確かによくない。だが、叱りづらい風潮のなか、教師たちも困惑し指導をあきらめてしまうことも。迷いの中にいる教育現場の声を聞いた。AERA 2024年2月12日号より。

【図表】子どもへの好ましい言葉かけはこちら

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 そもそも叱らない子育ての風潮が日本に広がり始めたのは90年代からだ。アドラー心理学をもとにした「叱らない・褒めない子育て」という欧米型の教育が注目され、関連書が話題となった。しかしアドラー心理学は、ただ叱らないよう説いているわけではない。「叱らない子育てという言葉だけが独り歩きしている」と指摘するのは、40年以上子どものカウンセリングや能力開発を手掛けてきた「gemstone(ジェムストーン)」(福岡市)代表の内海義彦さんだ。

「アドラー心理学は子どもの課題や問題は子どもが解くようにするという思想です。ここでいう『叱らない・褒めない子育て』は、親子でルールを共有し、それを守ることが前提です。そこが抜けてしまって本質が理解されないまま“叱らない”だけ広まっていることが、一番の大きな問題だと思います。中には大人から叱られないことを利用する子どももいます」(内海さん)

 教育現場は家庭以上に叱れない状況になっている。教師たちは言葉をのみ込むようになった。叱らない教師が高学年を受け持ち、子どもたちになめられ荒れるケースは少なくない。都内の女性(44)の小学6年生の娘(12)が通う公立小では、5年生のときのクラスが荒れた。担任は叱らないことがモットーだったが、それが裏目に出て子どもとの信頼関係が築けなかった。

マスクで表情分からず

「叱ることも褒めることも難しくなりました」と語るのは都内の公立小に勤める40代男性教諭。

「個性や多様性重視の論調が、叱ることを迷わせることがあります。あと親からクレームが一度入ると、もうこの子は叱らなくていいかなって思ってしまいます。でも本当は指導してもらえない子どもが損をしているんですけどね」と本音を漏らす。

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