「ザミッシェル・ガン・エレファント」のウエノコウジ(左)とチバユウスケさん=1998年8月

「絶望だけの歌はないんじゃないかな」

 ミッシェルのブレイク以降、日本のロックシーンは明らかに変化した。ASIAN KUNG-FU GENERATION、ACIDMAN、ストレイテナーなど、オルタナティブなセンスを持ったバンドが次々と登場し、人気を得た。彼らの多くはミッシェルから影響を受けたことを公言。チバが紡ぎ出す楽曲、そして、ロックスター然としたたたずまいは、まさに憧れの的であり、大きな目標だったのだと思う。

 2003年のミッシェル解散後もチバは、さまざまなバンドやプロジェクトを通して音楽活動を継続。2005年にThe Birthdayを結成し、精力的な活動を繰り広げた。このバンドでチバは、その歌の世界をさらに深めていった。代表曲「涙がこぼれそう」「なぜか今日は」といった叙情的な歌詞を通し、ロック詩人としての評価を高めたことも記しておきたい。

 結果的にThe Birthdayの最後のオリジナルアルバムとなった『サンバースト』(2021年)は、ロックンロール音楽の奥深い魅力を伝える作品だ。“サンバースト”とはギター、ベースのボディー塗装の種類のことだが、もともとは雲間から日が差す様子を表す言葉。本作のインタビューの際にチバは、「ずっと希望を歌ってるつもりなんだけどね、俺は。このアルバムもそうだけど、絶望だけの歌はないんじゃないかな」と語っていた。実際このアルバムには、コロナ渦を超え、明るい未来へと進もうとする意志が込められているように感じる。

 筆者が初めてチバに会ったのは、THEE MICHELLE GUN ELEPHANTのアルバム『カサノバ・スネイク」(2000年)の取材のときだった。その後も何度かインタビューの機会を得たが、いつもおいしそうにビールを飲み、煙草をくゆらせながら、機嫌よくいろいろな話をしてくれた。ライブにも何度も足を運んだ。最後に観たのは2022年12月のThe Birthdayの東京・中野サンプラザ公演。凄み、色気、詩情をたっぷり含んだハスキーな歌声は、相変わらず圧倒的だった。ミッシェル時代を含め、ステージの上のチバはいつも最高で、“今日は調子良くなさそう”などということは一度たりともなかった。チバユウスケは生涯を通し、常に最高のロックスターだったのだ。

 50代半ばに差し掛かり、これからさらに渋みと深みを増したロックンロールを聴かせてくれるはず……と音楽ファンとして勝手に期待していたのだが、チバは旅立ってしまった。しかし、約30年近くの音楽人生のなかで生み出してきた作品とライブの記憶はずっと残る。チバの音楽はこれからも多くのリスナーとミュージシャンを刺激し、大きな感動を与えてくれるはずだ。

(森 朋之)

著者プロフィールを見る
森朋之

森朋之

森朋之(もり・ともゆき)/音楽ライター。1990年代の終わりからライターとして活動をはじめ、延べ5000組以上のアーティストのインタビューを担当。ロックバンド、シンガーソングライターからアニソンまで、日本のポピュラーミュージック全般が守備範囲。主な寄稿先に、音楽ナタリー、リアルサウンド、オリコンなど。

森朋之の記事一覧はこちら