タレントでエッセイストの小島慶子さんが「AERA」で連載する「幸複のススメ!」をお届けします。多くの原稿を抱え、夫と息子たちが住むオーストラリアと、仕事のある日本とを往復する小島さん。日々の暮らしの中から生まれる思いを綴ります。
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飛行機に乗るたびに、機長のアナウンスを楽しみにしています。パイロットに憧れているからです。あんなに大きくて扱いにくそうな形の乗り物を動かすなんて、しかも飛ばして降ろして走らせて正確に駐機するなんて、すごいことですよね。私もやってみたい。まして自分が乗る飛行機を操縦する機長には命を預けているのですから、どんなお方かぜひ知りたいものです。機長アナウンスを聞いて「今日の機長は田中さんか。陽気そうな人だな」「ウォンさんか。真面目そうだ」などと人柄を想像します。この10年間で乗った国際線・国内線はかなりの数になりますが、女性の機長が操縦する飛行機に乗ったのは1回だけです。海外の航空会社でした。機長の挨拶アナウンスを聞いた時に「わあ! かっこいい」と叫びそうになりました。10年後には女性機長が珍しくなくなっているといいな。
先日は、山手線の運転士さんが若い女性でした。もともと運転席を眺めるのが好きなのですが、この時はいつにも増して目が釘づけでした。キレのいい指さし確認の動き。もしも今自分が小学生だったら、電車の運転士さんになりたいと思っただろうと想像しました。いえ、正直にいうと、もう51歳の今の私も、「電車の運転って楽しそうだな。私もやってみたいな」と初めて思ったのです。
自分と共通点がある人がしていることは、自分にもできるかもしれないと思えます。性別が同じというだけで自己投影するのは単純にすぎるかもしれません。でもやっぱり、女性機長や女性運転士には親しみを感じます。彼女たちが決して珍しい存在ではなくなったら、今ほどは注目されなくなるでしょう。そして、幼い頃から運転士や機長は自分にも選べる仕事だと当たり前のように思えるでしょう。そういう「女の子の当たり前」が増えますように。
※AERA 2024年1月29日号