与党・民進党が勝利した台湾総統選。日本では台中関係を争点として取り上げられることが多いが、注目すべきは第三勢力である柯文哲率いる民衆党の躍進だ。AERA 2024年1月29日号より。
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台湾総統選の投開票がおこなわれた1月13日、私は「勝者」の選対本部前にいた。現場は支持者でごった返し、すでに投票結果が出たにもかかわらず小旗を振って候補者名を連呼する声が上がり続けている。
ここは台北に隣接する新北市新荘。総統選の3番目の候補者である柯文哲の陣営だ。元医師で前台北市長である柯文哲は「第三極」の台湾民衆党を率いて、SNSを駆使した選挙戦略で若者層から支持を集めた。
台湾では総統選と同時に、一院制の国会である立法院の選挙も実施されるため、選挙戦は党を挙げての戦いでもあった。壇上に登った比例当選者の黄国昌が声を張り上げる。
「私たちは結党からわずか4年、組織力も資金力も弱い。それなのにここまで来られた。2年後は地方選、そして4年後には次の総統選がある。やるぞ!」
歓声が上がり続ける現場を離れてスマホを開き、他陣営の中継を確認してみる。
まずは総統選に勝利した与党・民主進歩党(民進党)の頼清徳陣営だ。
「(今回の結果は)台湾が権威主義の側ではなく民主主義の側にいることを世界に示した」
頼清徳が話している。ただ、支持者の万歳の連呼を受ける彼の表情は硬く、疲れ切っているようにも見えた。勝利宣言もいまひとつ力強さがない。
得票2位の中国国民党(国民党)の侯友宜の会場に至っては、大勢が判明したところで群衆が続々と帰り、人もまばらだった。歴史の古い国民党は高齢層に支持され、集会への組織的な動員力も高いが、逆に言えば負けた候補を励まし続けるような熱心な支持者には欠けている。
対して柯文哲の陣営は異なった。壇上に立った彼が「これは台湾の社会運動の新たな成果だ」と自説を述べる表情からは、手応えを感じる様子が伝わる。会場のあちこちで声が上がった。
「みんな、今回の結果だけで諦めるか?」
「諦めない!!」
会場にはひたすら高揚感が漂っていた──。