「ねじれ国会」誕生
勝者と敗者が逆転したかのような光景が生まれた理由は、表を見れば察せられる。
前回の2020年総統選で、蔡英文が817万票(得票率57.1%)を獲得して圧勝したのと比べて、今回の頼清徳は4割程度しか得票できていない。投票率がやや低下した影響もあるとはいえ、前任者よりもはるかに弱々しい数字だ。
さらに悩ましいのは立法院選である。蔡英文が当選した2回の選挙はいずれも民進党が単独過半数の議席を確保したが、今回は定数113議席のうちわずか51議席。小選挙区で民進党候補の敗北が目立ち、野党の国民党は52議席を得た。
総統の党と議会の第1党が異なる「ねじれ国会」が生まれたのだ。
いっぽう、第1野党の国民党も国会議席では上回ったものの、前回と比べて総統候補の得票は減り、比例区の得票も横ばい。勢いは感じられない。
従来、台湾の政治体制は、台湾アイデンティティーを強く打ち出し中国と距離を置く民進党(緑色陣営)と、中華民国体制への愛着が強く中国大陸との融和姿勢を重視する国民党(藍色陣営)の二大政党制として説明されてきた。
今回の総統選も、日本では台中関係を争点として取り上げる報道が目立った。
だが、この構図だけで今回の選挙を見ると本質を見誤る。理由は二大政党の「藍・緑」いずれにも属さない第三勢力、柯文哲率いる民衆党の躍進だ。
柯文哲は総統選に負けはしたものの369万票を集め、国会でも8議席を獲得。二大政党がいずれも単独過半数を得られなかったことで、国会のキャスティングボートを握ることに成功した。開票集会での群衆の熱気も、この結果ゆえのものだ。(ルポライター・安田峰俊)
※AERA 2024年1月29日号より抜粋