確かに、伊藤先生のおっしゃるように、おばあちゃんがベロってなる画面に説得力がないので、もう少し怖い感じで描けるともっと良かったかなと思います。

 ちょっと変わったとこで「山婿」もいいですね。ショートショートですが、画面を見ると描き慣れていらっしゃる。ただ、慣れているが故に、絵が流し気味になってしまう。1ページ目の掴みが薄くて人物が全然出てこないシーンから始まるので、 もう少しキャラクターを押し出した感じで最後まで行けばよかったかな。

「形人間」は上手ですが、読み進めにくいんです。語りの女の子に感情移入がしづらい。 例えば変な人が夜道にいたらまず、逃げるかなんかするけれども、近づいて行ってしまうことを理屈で喋っている。そこが読んでいて疲れてくるところ。人間だと思ったら違った、人形だと思ったら違ったっていうのを、メリハリつけて見せてほしいですね。

 画面構成とストーリーの構成が弱いんです。例えば、不気味な人に個性は要らない。読者は、主人公の女の子を追っていくので、女の子の言っていることや行動を読者が納得できないと怖さが伝わらない。

「縊鬼」はアイデア賞かも。見開きの妖怪の絵はとてもいいのですが、首をつっている人の代わりという面白さが活かせるエピソードがないまま、この人の事情に流れていってしまう。

 例えば、首をつる人のエピソードが何本かあって、この主人公が活躍した後に最後の事情に流れつければ、シリーズものとしてもいいですね。

馮年:「赤色のむこうは異世界」です。映像を普段作っている人間の視点から考えてしまうのですが、赤色のフィルターを通すと異世界の怪物が出てきて襲ってくる設定は、映像にした時には非常に映えそう。いくらでも工夫のしがいがある設定だなと思いました。

 内容も、ほんの少しの悪意であっても、ちょっとしたことが徐々にエスカレートして取り返しのつかないようになっていくっていうパターンで、想像を上回ってきたので面白いなと思いましたが、ただオチがすごくあっけなかったな。

マンガのどのシーンが魅力的だったのか、審査員が説明していく(撮影・上田泰世/写真映像部)

波津:確かにこれは、映像向きの作品ですよね、マンガではなくて。1色にしたときに、どうやって表現をするのか……ネットのマンガだとカラーも可能なので、色を使うのは今の時代のアイデアですね。

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2024年この本が読みたい!「本屋大賞」「芥川賞」「直木賞」
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