全国的に梅雨が明け、日本列島全域で暑さ厳しい日々が続いていますね。こんなときは、しばし浮世の暑さを忘れて、非日常へとエスケープしたいもの。そこで今回は、お天気とはちょっと離れて、「蓄音機」のお話を。
本日7月31日は、蓄音機を発明したエジソンがその特許を取得した日とのこと。100年もの時を超え、今なお聴く者の心を惹きつけてやまない蓄音機の成り立ちと魅力にふれてみましょうか。

円筒型蓄音機をエジソンが発明したのは1877年。そのときから「音」の記録&再生の歴史が始まった

「天才とは99%の汗と1%のひらめきである」の名言で知られるトーマス・アルバ・エジソン(1847年~1931年)。
生涯におよそ1300もの発明をしたと言われる発明王・エジソンの伝記を、幼いころ夏休みに読まれた方も多いのではないでしょうか。
今から138年前の1877年(明治10年)――。前年にグラハム・ベルとの電話機開発競争にやぶれたものの、世界初の音の記録&再生に成功したエジソン。このとき、蓄音機の歴史が始まりました。その最初の姿は、円筒に錫(すず)のシートを巻き付けた「ティンフォイル機」。童謡「メリーさんの羊」が錫箔に録音され、見事再生することに成功したのです。
そもそも音の正体は空気の波(音波)。音は波長として伝わる性質を持っているので、この波長を記録することができれば、自由に再生することができるという原理にもとづいた発明だったのですね。
その後約10年、蓄音機の研究から離れたエジソン。その間に永遠のライバル、グラハム・ベルが再び立ちはだかります。ベルの研究所では、蝋(ろう)の表面に針で音を刻む方法を確立し、蓄音機の実用化に成功。そのことがエジソンの闘志を再びかき立てました。エジソンはなんと5夜連続の徹夜作業の末、改良型のエジソン式蓄音機を完成させたということです。

エジソン以降、ポータブル型やフロア型、様々な蓄音機が製造されました。どんな音を響かせるのでしょう?
エジソン以降、ポータブル型やフロア型、様々な蓄音機が製造されました。どんな音を響かせるのでしょう?

円盤形レコードが登場し、電気を使わず音楽が聴けるプレイヤーとしての蓄音機へ

エジソンとベルの闘争のさなか、第3の発明家、エミール・ベルリナーが、1887年平盤ディスクに横振動で録音する特許を申請。これにより、エッチング法でレコードがプレスできるようになりました。
おなじみの音楽を再生するドーナツ型のレコードとプレイヤーの原型は、このベルリナーにより開発されたのですね。
その後、様々に改良され、各社から多彩な製品が次々と生まれた蓄音機。
よく見かける大きなホーン(らっぱ)は、再生した時に聞き取りやすくするためのものだったそうです。また、ターンテーブルを回す動力には、重りやぜんまいを使用。20世紀に入るとホーン内蔵型の蓄音機も登場し、第一次世界大戦中には戦場の軍人を慰安するために、小型化や持ち運びやすさへの改良が進みました。さらに、マイクロフォン録音なども行われるようになり、1950年代頃にLPレコードが普及するまで蓄音機は長く愛されたのです。
蓄音機用のレコードは、(LPレコードと区別するために)「SPレコード」と呼ばれています。その材質は、「シェラック」(ラックカイガラムシの分泌物を使った樹脂状物質)。今でもニスやワックスなどに使われている天然のプラスチックのような素材です。針は鉄、竹、なんとサボテンも使われているようです。

蓄音機といえば、ラッパが付いたこの姿を思い浮かべる方も多いのでは?
蓄音機といえば、ラッパが付いたこの姿を思い浮かべる方も多いのでは?

かつての名演奏がまざまざと甦る蓄音機の音色を聴けば、100年前にタイムスリップ!?

さて、実際の蓄音機の音色はどんな感じなのでしょうか。
映画やテレビでよく登場するように、ノイズでくぐもったかすかな音なのでしょうか。
手巻きのハンドルをぐるぐると回し、ターンテーブルにSP盤を置きます。さらに盤の上にそっと針を落とすと、レコードに刻まれた溝を針が進み、サウンドボックスの振動板をふるわせます。
針が盤を伝うじりじりという音に続いてあふれ出るように流れる音楽は、(蓄音機と盤のコンディションが良好ならば)演奏家自身が今ここで楽器を奏でているかのようなフレッシュな躍動感にあふれています。
蓄音機とは、まさにそれ自体が一つの楽器のようなもの。
CDなどのデジタルな音色とは明らかに違うことに、聴いた瞬間、驚く人も多いということです。
ヴァイオリンやチェロなどの弦楽器はとくに素晴らしく感じられ、奏でられる音の洪水に溺れそうなほど、リアルな音色が室内いっぱいに広がります。今は亡き名歌手、シャリアピンやカルーソ、マリア・カラスやビリー・ホリデイ、美空ひばりなどの歌声も鮮烈に、すぐ目の前で歌ってくれているかのように生々しく迫ってきます。
電気を使うことなく、美しい音楽を奏であげる蓄音機。東日本大震災後の避難所でも、ときにその音色が響きわたり、多くの人の心にほのかな明かりを灯したと聞きます。
かすかな雑音は、その時代の空気そのままを封じ込め、録音されたゆえ。懐かしく温もりある蓄音機の音色を聴けば、きっと、過ぎ去った時間へ、タイムスリップしたような気持ちになることでしょう。
時空を超え甦った昔の音が、今、ここにある。
そんな非日常のひとときを、ぜひお近くで機会があれば体験してみてくださいね。

※参考文献・サイト
・大人の科学マガジン 10周年ありがとう!号(学研教育出版)
・哲学者クロサキの哲学する骨董(黒崎政雄著 淡交社)
・発明王エジソンの足跡
http://www.edisonworl10.com/person/master.html