異色なのは、メールのみのインタビュー本であることだ。一度も対面しないままに進行していく。しかも質問者からの第一信が〈佐藤さん、疲れませんか〉。仕事でへとへとで気が乗らないとライターが「ぶっちゃけ」てしまっている。
 作家歴30年を超え、近年のヒット作は『身の上話』。出不精で地元を離れたがらず、「飛蚊症」「五十肩」をわずらい「鬱」でブランクがあったなど、文中から近況がそれとなく窺い知れる。09年から今年まで、文芸誌「きらら」に連載されたものが下敷きになっている。当初のぶっちゃけライターが失踪。交代した質問者がこれまた〈正午さん〉となれなれしく呼びかけ、佐藤氏を〈無精ったらしい質問の放り投げはやめてください〉といらつかせる。
 にもかかわらず、句読点にこだわる「文体」論から「創作」の手の内まで詳らかに語っている。夏目漱石の『坑夫』や、自身の分身ともとれる作中の「元作家」を持ち出し、「書く理由」にも几帳面に返答。コミカルで奇抜に見えるが、衒わず真摯に語るには、佐藤氏にとってこの手法以外にありえなかったのだろう。

週刊朝日 2015年8月7日号