枠から出る勇気
七之助:稽古の回数が少ないというのもあるかもしれません。
宮藤:確かに。僕は毎回「これぐらいの稽古はやらせてほしい」と言うんですが、結局回数は少ないんですよね。
七之助:「唐茄子屋」もすごく少なかったですよね。
宮藤:でも、いつもの歌舞伎はもっと少ないんでしょ?
七之助:そうですね。
宮藤:僕がもっと準備できていれば、より稽古の時間を有効に使える。いまだに歌舞伎座がある東銀座に近づくと「ちゃんとやんなきゃ」っていう気持ちが強くなって緊張するんです。早く慣れたい(笑)。
七之助:(笑)。こちらもチャレンジングな宮藤さんの作品だからこその緊張感はあります。「唐茄子屋」では、勘太郎と長三郎がすごく自由に楽しそうにお芝居をやっていたんです。宮藤さんもそれを見て、2人には「もうちょっとこうしてみよう」ということを伝えて肉付けされていました。2人の芝居を見て、僕も含めて歌舞伎の枠からなかなか抜け出せない俳優陣は反省するところがたくさんあったんじゃないかと思います。時間をかければ枠から思い切って出ることはできるけど、つい枠をなぞってしまうのは歌舞伎俳優の悪い癖。枠の中に自分を固めてしまうと、そこから出るのはすごく勇気がいりますからね。
(構成/ライター・小松香里)
※AERA 2024年1月15日号より抜粋