いまだに“出所祝い”は密かに行われている
1997年8月、五代目時代の山口組の内紛で、宅見勝若頭が神戸市内のホテルの喫茶店で射殺された事件では、宅見若頭のすぐ隣の席に座っていた69歳の男性の後頭部に流れ弾が命中して死亡した。男性は歯科医で、医師会の会合でホテルに来ており関係者と談笑しているところだった。
事件を引き起こした山口組傘下の有力組織、中野会系組員の実行犯3人は懲役20年の判決となり、リーダー格は無期懲役の判決が確定した。暴力団が関与した事件やその刑事裁判をウォッチしている弁護士は、「被害者が二人となれば、現在では実行犯についても有期刑はないだろう。死刑の判断も十分に考えられる」と話す。
現在は有期懲役の最長は30年で、無期懲役が確定した場合は、30年の服役を経ないと仮釈放の対象とはならない。
こうした厳しい量刑になることが分かっていても、「うちにはまだまだケンカがあれば『自分が行きたい』と意思表示をしている若い衆がたくさんいる」と多くの暴力団幹部は言う。
無期懲役などほぼ終身刑に近い服役を強いられることが分かっていても、対立抗争では命がけでケンカの場に飛び込むという若手がいると言う。ある指定暴力団幹部は、「強い組織には、迷いなくケンカに行く気持ちのある若い衆が多い」と強調する。
暴力団社会では組織のための自己犠牲が称賛され、長い懲役から復帰すれば、かつては相応の地位や報酬が約束されていた。現在は出所後の報酬などは法律で禁じられているが、出所後の祝いは密かに行われているようだ。
拳銃の取引価格は約3倍に
対立抗争が進行するに従い、「驚くほど『道具』の値段が高くなった」と主に東京都内で活動している指定暴力団の幹部が私に明かしてくれた。「道具」とは「拳銃」を意味する隠語で、アングラマーケットで拳銃の価格が高騰を始めたというのである。
実弾は一部で通称「マメ」と呼ばれ、1発につき1万円が相場だった。このころには、「マメを多めに付ければ拳銃一丁を3桁(100万円)で買い取る」という提示もあったという。2015年8月の分裂前は「道具」は一丁、20万円から30万円で取り引きされていた。しかし山口組分裂後には、「あっという間に70万円から80万円になった」(同前)。
ヤクザは拳銃の取り扱い、射撃に慣れていると思われがちだが、暴力団幹部は、「拳銃は一般に持たれているイメージに比べて、取り扱いが格段に難しい」と口を揃える。
指定暴力団幹部「(練習で)何十発も撃ったが、冷静に落ち着いて発射しても拳銃はとにかく当たらない。発射の際の反動で銃口が上を向いてしまう。大型の拳銃であればなおさらだ。45口径のような大型拳銃の場合は、片手で安易に撃つと肩の関節が外れるのではないかというほどの大きな衝撃と反動がある。拳銃でさえ難しいのだから、(神戸山口組幹部が射殺された)尼崎で自動小銃を乱射した事件は、事前にかなり練習していたはずだ。
M16は戦争映画に出てくる機関銃のようなもの。ケンカに行く当日になってはじめてこの銃に触ったとか、手に取ったとか、はじめて撃ったということでは絶対にない。銃を持つ構えから銃弾の装填など、何もかもしっかりと指導されなければうまく操作できない代物に違いない。」