多くのヤクザが国民健康保険に加入している
この幹部は回転式のほうが確実性は高いと言うが、自動装填式のほうが信頼度はあると主張する暴力団幹部もいて、それぞれにこだわりがあるようだ。対立抗争となれば暴力団組員たちは敵対する相手との間で命のやり取りをすることになる。
意外なことに、暴力団組員は健康保険証を所持している者が多いという。日本では、国民健康保険であれば、基本的には誰でも加入資格はある。暴力団組員だからといって排除されることはない。
東京都内で活動している指定暴力団幹部「けがをした際などのために健康保険は絶対に必要。必須だ。ケンカに行ってけがをした場合に、無保険で治療費が10割負担となれば、大変な金額になる。ケンカはいつ起こるか分からないから、健康保険には加入している。所得がないことになっているから、保険料は最低レベル。ケンカだけでなく、普段から風邪をひいたとか、虫歯の治療だとかと何かと必要。」
首都圏に活動拠点を構える別の指定暴力団古参幹部「世間の人たちは『ヤクザがけがをしたら、専門の闇医者の世話になる』というイメージがあるかもしれないが、自分の場合はそのようなことはない。ケンカはいつ、どこであるか分からない。もし自分が拳銃で撃たれたり、刃物で刺されたりするようなことがあれば、119番通報してもっとも近くの病院に運んでもらう。それが最善の策だ。ほかのヤクザもみな同じはずだ。
ヤクザはマイナンバーカードを取得するのか
知り合いの医者がいる病院に運んでほしいなどと言っていたら、『あっちだ、こっちだ』とやり取りしている間に手遅れということになりかねない。最寄りの病院に救急車で搬送してもらえば、けがをしていれば誰でも治療してもらえる。ヤクザだからといって断られることはない。治療費がどれほどになるか分からないから、健康保険には当然入っている。少し前のことだが、生命保険にも入っていた時期があった。(ケンカに備え)女房が手続きをしていた。」
現在では暴力団などの反社会的勢力は契約を伴う行為から排除される傾向が強まっている。前出の古参幹部も、「いまとなっては生命保険には加入できないだろう」とこぼしていた。
健康保険証とマイナンバーカードを統合することなどを盛り込んだ改正マイナンバー法が2023年6月、国会で可決、成立した。政府は2024年秋に現行の保険証を廃止する方針を示している。暴力団はどう対応するのか。
前出の古参幹部「マイナンバーカードは取得しない。カードがなくとも使える代替の資格確認書で健康保険を使えるようにしていくしかない。マイナンバーカードを作るには、銀行口座と紐づけることも求められることになりそうだ。近年は反社会的勢力の排除ということで、表向きは銀行口座を持っていないことになっている。だからこのようなカードはそもそも作れない。
『銀行口座が実はあります』などと明かしたら、まずいことになる。かつてはヤクザの立場を隠して銀行口座を開設して逮捕された事件は山ほどある。(マイナンバーカードについては)何もしないということだ。」
酔い覚ましには“万能薬”を使う
マイナンバーカードの申請や取得は義務ではないため、申請が難しい高齢者や取得を希望しない国民には「資格確認書」が健康保険組合から発行されることになる。多くの暴力団組員たちは、「マイナンバーカードは作らない」という。
暴力団幹部は毎日のように繁華街を飲み歩いているイメージがあるが、酒に酔っていい気分になっている最中に「ケンカ」「抗争」の一報が入った場合にはどう対処するのか。
前出の指定暴力団古参幹部「毎晩のように飲み歩いていたのはその通り。若いころは本当に毎晩、飲んでいた。しかし、酒を飲んで酔っ払っていてもケンカの招集がかかったら、道具(拳銃)を持って行かねばならない。そこで酔いが一発でさめる万能薬がある。それは、シャブだ。覚醒剤のことだ。ぐでんぐでんに酩酊めいていするほど泥酔していたら効き目があるかどうか分からないが、少し酔っている程度だったらシャブを打つとすぐに酔いがさめて頭の中がスッキリする。」
(尾島 正洋:ノンフィクション作家)