子ども家庭福祉に詳しい目白大学教授の姜恩和(カンウナ)さんは、1995年に韓国から日本に来て、「なぜこんなに母子一体型なのか」と不思議に思ったという。父親の顔が見えず、母親の規範性が強い社会だと感じた。
「母親への社会的支援は、産前から産後まで多岐にわたりますが、たとえば母乳のケアや子育て支援など、母親としての視点の支援が多く、これまでは女性が自立して生きていく、生活そのものの観点が弱かったように思います。母親の中には、経済的な困窮や、孤立している方もいて、医療面だけでなく福祉との連携が欠かせません」
また、母親としての責任感も強く、自己責任として自分を責める女性も多く見てきた。
「望まない妊娠をした女性ですら、妊娠を自分の責任として、男性の話が出てこない。自分一人のことじゃないのに。母親としての責任を社会から押し付けられてもいるし、内面化してしまっているとも思います。日本はもっと『迷惑』という概念から解き放たれるべきではないでしょうか」
今村優莉さん(41)は、2018年に0歳と1歳の子どもを連れ、セブ島へ母子留学した。ある日、ベビーカーに子どもをのせ、ママ友たちと一緒に水着を買いに行くと、「子どもたちは見ているから、ゆっくり試着して」と、店員たちが勢ぞろいで子どもをあやしてくれた。子どもが泣いたとしても母親に戻すことはなかったという。
「すごく楽しくて、久々に独身時代を思い出しました。社会で育てるというのは、こういうことなんだ、と」
「母」という顔は、一人の女性の一部に過ぎない。社会制度を整えるのは重要だが、個人としての生き方が尊重される視点がなければ、母親のしんどさはなくならない。(編集部・大川恵実)
※AERA 2024年1月1-8日合併号より抜粋