斎藤環(さいとう・たまき)/精神科医、筑波大教授。専門は、思春期・青年期の精神病理学。著書に『オープンダイアローグとは何か』など多数

「未来語りの対話」

 あと一つぜひやってほしいと思うのが、「アンティシペーションダイアローグ」と呼ばれる「未来語りの対話」です。未来、具体的には1年後を想像して対話をすることです。

 この対話法がいいのは、理想を語ることができる点。理想の未来をイメージし、未来から現在を振り返るのです。未来は平和な状態にあるが、どういう人やどういう国の協力があって達成できたかと架空の話を追想の形式で語ってもらいます。「1年後は核戦争で国がなくなっている」など、暗い未来を語る人が出るのではという心配もあるかもしれません。しかし私が臨床で実践してきた経験からいうと、未来を語る時はネガティブな話は出てきにくいことがわかっています。ここでもそこで生じる相互作用によって、戦争抑止につながっていくはずです。

 こうした国対国の対話は今まで誰もやったことがありませんが、個人対個人の対話ではかなり成果が出ているので、ぜひ試してほしいと思います。

 その際、日本にできることがあります。「戦争放棄」をうたう憲法9条を持つ国として、両国を仲介する「ファシリテーター」としての役割です。そこでは「戦争を放棄しよう」と伝える必要はありません。しかし、戦争放棄の理念を抱く国が間に入ることで、自然と戦いをやめようという考えに向かっていく可能性があると思います。

(構成/編集部・野村昌二)

AERA 2024年1月1-8日合併号

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