渋谷タワーレコードの記念イベントに登壇した松本隆さん(写真左)と鈴木茂さん(ソニー・ミュージックレーベルズ提供)

 TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽とともに社会を語る、連載「RADIO PA PA」。今回は、伝説のバンド「はっぴいえんど」について。

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 ディレクターの頃、師走に入るとはっぴいえんどの『12月の雨の日』をかけていた。通称『ゆでめん』B面に入っている曲だ。オンエアするなり、リスナーから曲目の問い合わせがあった。それくらいカルトな作品だった。

 雨あがりの街に風が吹き、流れる人波を僕は見ているという歌詞。当時FM東京と呼ばれた局は新宿副都心の超高層ビルにあり、生放送スタジオで眼下に首都圏を見渡しながらレコードに針を置いた。

 それからずいぶん経って松本隆さんと知り合い(信じられないほど光栄なことだった)、いろいろ話を伺いながら『松本隆 言葉の教室』という本を出すこともでき、僕にとってはとても大切な先輩になった。

1stアルバム『はっぴいえんど』

部屋のベッドに鎮座していた

 前月、『はっぴいえんど(ゆでめん)』を含め、『風街ろまん』『HAPPY END』のはっぴいえんど3作がリマスターされたが、渋谷タワーレコードで開かれた記念イベントに松本さんと鈴木茂さんが登場した。この時点で3アルバムが売り上げ上位に入っていることに触れ、「一つのバンドが50年、キープできている。今はサブスクリプションの時代。時間軸や空間軸も、国境もないんですね」と松本さんがマイクを握った。そのままバンド黎明期の話へ。まず、鈴木さんが入る前のエピソードを。

「大瀧(詠一)さんは東北の人だったから、細野(晴臣)さんと東北旅行に行ってね。紅葉があったから今頃だったのかな。僕のトヨタコロナか、細野さんのニッサンブルーバードだったか覚えていないんだけど」

(へぇ、コロナとブルーバードに乗っていたのか)とふむふむ。それだけでも貴重な話だ。

「その後、松本さんに呼ばれてね。ギターを持ってきてって」と鈴木さん。彼はとんでもないギター少年との評判だった。「細野さんは松本さんの部屋のベッドの上に鎮座していた」。

はっぴいえんど(ソニー・ミュージックレーベルズ提供)
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延江浩

延江浩

延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー、作家。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞、放送文化基金最優秀賞、毎日芸術賞など受賞。新刊「J」(幻冬舎)が好評発売中

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