本連載の書籍化第5弾!『鴻上尚史のおっとどっこいほがらか人生相談』(朝日新聞出版)
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「私ってバカだから」というのも、自分で先に「バカ」と言っておくと、周りから「お前、バカだな」と言われた時に、ショックが少ないだろうということです。

 先に「私はバカなんだ」と自分で言っておけば、人から言われても、「知ってるもん。先に言ったもん」と思えて、少しは痛みが和らぐと考えるのです。

 もずくさんの場合は、「専業主婦は全ての能力が低い」「アラフォーのオバサンは若い子に嫉妬している!」「自分の趣味もない母親なんて子供から見ても重いしつまらない」なんて記事を読むことで、実際に他人から直接言われた時のショックに対して身構え、耐性を作ろうとしているんじゃないでしょうか。

 内心、こういう考えに悩んでいて、怯えていて、「直接、このことを言われたらどうしよう」「こんなことを突きつけられる現場に出合ったらどうしよう」と考えると、不安でたまりません。なので、言われて嫌なことに自分から接すると、最悪のケースの予行演習ができて、少しは(変な表現ですが)心が休まるのではないかと思います。

 ちょうど、試験の後に、「受かるかどうか分からない」と言うより「落ちた!絶対に落ちた!」と言う方が、なぜか心休まるのと同じ現象です。

 でね、もずくさん。

 最悪のことを想定して、それを口に出し、あらかじめ痛みを感じるという生き方は、ポジティブとネガティブの両面がある生き方だと僕は思ってます。

 よく「最悪の結果を予測して、最善の対策を用意しろ」と言われたりするでしょう。これはとてもポジティブな意味の使い方ですね。

 アジア・太平洋戦争中に、作戦を立案した司令官に対して、「もし、失敗した場合はどうしますか?」と質問して「貴様! この作戦が失敗すると思っているのか!」と叱責されたという証言が多数残っています。日本軍の敗色が濃厚になっていった時期です。言葉は言霊だから、「失敗した場合」を口に出すと、それが現実になると恐れたんでしょうか。それとも、失敗した場合はもう何も考えられない状況だったのでしょうか。

 同じ時期に、米軍はプランA、プランBという言い方をして、「プランAがうまくいかなかったら、ただちにプランBに切り換える」なんてやり方をしていました。プランAが失敗したことにフォーカスを当てるのではなく、プランBを実行することに集中したのです。

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最悪のことに接しながら、最善をイメージする生活