鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)
鴻上尚史さん(撮影/写真映像部・小山幸佑)

 自分の属性を叩くSNSを自らわざわざ見て辛い気分になる、とその心理を不思議がる38歳女性。止めるほう方法を問う相談者に、鴻上尚史が「それは人間の、とても自然な感情」と分析した理由とは。

【相談206】嫌な思いをするのに自分の属性を叩くSNSを見てしまう心理って何なんでしょう(38歳 女性 もずく)

 私は38歳の専業主婦です。

 家族仲も良く、金銭的にも不自由なく、不満点といえば子供が小さいので自由時間が少ない事くらいで、概ね幸せに生活しています。

 ですが、元がネガティブ思考なせいか、ついつい「専業主婦は全ての能力が低い」だとか「アラフォーのオバサンは若い子に嫉妬している! 見た目だけじゃなく心も何もかも若い子より劣る!」「自分の趣味もない母親なんて子供から見ても重いしつまらない」みたいな事を書いている記事やX(旧ツイッター)をわざわざ見に行っては落ち込んで暗くなっています。

 勿論、旦那や子供の前では明るく振る舞っていますが、2人が寝静まった後にはついつい見に行っては辛い気分になってしまいます。

 自分でも、わざわざそういう人の話を見に行かずに同じ立場の専業主婦の人と話したりしたらいいのに、とは思いますしそういうアカウントも作りましたが、そちらは平和すぎるのでわざわざ見る意味って?と思ってしまい、たまにしか見に行く気が起こりません。

 ツラい嫌な思いをするのはわかっているのに、わざわざ自分の属性を叩く人の意見を見に行ってしまう心理って何なんでしょうか?

 できれば止めたいと思っているのですが、どうしたらいいでしょうか。

【鴻上さんの答え】
 もずくさん。もずくさんの文章に「そうなのよ。なんでかそうなのよねえ」とうなづいている人も多いと思います。

 ツラい嫌な思いをするのは分かっているのに、それをわざわざ確かめるというのは、人間にとってとても自然な感情のひとつなんじゃないかと僕は思っています。

 それは、「あらかじめ最悪なことを想定して、現実にそなえる」ということではないでしょうか。

 よく、試験を受けたあと「最悪! 終わった!」と叫ぶ人がいます。あらかじめ「落ちた」とか「最悪」とか言っておけば、本当に落ちた時とか最悪の時に、クッションになって辛さが減る、ということです。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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