挙手する男性紙に書く女性質問の不思議(イラスト:サヲリブラウン)

 作詞家、ラジオパーソナリティー、コラムニストとして活躍するジェーン・スーさんによるAERA連載「ジェーン・スーの先日、お目に掛かりまして」をお届けします。

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 先日は、埼玉県春日部市のハーモニーフェスタにて、講演会を行いました。今回は定員100名。いつもよりアットホームな雰囲気で進みました。質疑応答では、質問を紙に書くか、その場で挙手するか、どちらも選べる形にしてもらいました。選択肢が多いほうがよいと思ったので。

 質問タイムになり、まず挙手を募ると、60代後半と思しき男性と、70代の男性(ご自身が申告されていた)が真っ先に手を挙げてくれました。

 60代後半の男性は、旧来型の価値観が染みついた会社で自分の居場所がないことへの解決策を、70代の男性はLGBTQ+に関する疑問と、女性の社会進出についての質問をしてくれました。私はこのお二人の態度に、とても感銘を受けました。

 60代後半から70代の男性が若かりし頃は、男女共同参画という概念はありませんでした。当時の高齢男性が、かなり年下の専門性のない女の話を1時間半もじっくり聞くなんてこともなかなかなかったと思います。男は強くあれ、という圧も今とは比較にならなかったはずです。

 そういう社会で育ってきたにもかかわらず、60代後半の方は「居場所がない」という弱みを大勢の前で自然に告白し、70代の方は自分の理解が至らない点について、質問を装った反論や上から目線のお説教ではなく、私の話を尊重して率直に尋ねてくれました。どちらも大人になってからのアップデートがないと為せないことだと思います。その日のテーマがアップデートの重要性だったこともあり、これだ!と感銘を受けたのです。

 一方、女性は質問を紙に書くほうを選ぶ方が多かったようで、挙手した方はいませんでした。選べるようにしたのだからどちらでもよいけれど、結果的に質疑応答の時間が十分に取れず、答えることができない質問が残りました。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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