パレスチナ問題は複雑で分かりづらいと思われていますが、宗教問題でも、何千年も遡らなければわからない問題でもありません。端的に言えば、シオニズム、ナショナリズムと植民地主義の問題です。19世紀後半にテオドール・ヘルツルという人がシオニズムを掲げました。結局そこからイスラエル国家を作ろうという運動が出てきて、パレスチナにあの国を作りました。実はこれこそがヨーロッパの「原罪」の外部への転嫁と言えます。ヨーロッパ内の版図でその「原罪」を贖わず、そのツケをパレスチナの地に転嫁したところに、今日のパレスチナ問題の発端があるのですから。

 ウクライナ問題、パレスチナ問題が米中関係にも大きな影響を与えています。第2次世界大戦が終わり、世界を仕切る米国の言うことを聞いていれば幸せになれるという方程式の終わりは、すぐそこまで来ているのかもしれません。そういう意味でも今回のAPEC、なかでも米中首脳会談は、我々が想像する以上に大きな意味を持っていたと言えるかもしれません。

AERA 2023年12月4日号

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姜尚中

姜尚中

姜尚中(カン・サンジュン)/1950年熊本市生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科博士課程修了後、東京大学大学院情報学環・学際情報学府教授などを経て、現在東京大学名誉教授・熊本県立劇場館長兼理事長。専攻は政治学、政治思想史。テレビ・新聞・雑誌などで幅広く活躍

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