キリスト教が浸透している欧米では、聖人たちの伝説が広く知られているので、詳しい説明を抜きに聖人たちの記録を列挙した「聖人事典」が多く出版されています。それらのいくつかは日本語に翻訳され刊行されていますが、聖人たちのことをよく知らない日本人がいきなり「聖人事典」を読んでも、ほとんど意味がわからないはずです。

 拙著『どろどろの聖人伝』は、聖人の知識ゼロの方でもすんなり理解できるように、キリスト教が誕生する以前まで遡って時系列順に関連事件を並べ、人物相関図や地図も添え、主要聖人を把握しながら、キリスト教の歴史の全体像も一気に把握できるつくりにしました。のべ千数百人いる聖人たちの伝説の中から、特に印象的な50の物語を厳選してご紹介しています。お話として圧倒的に魅力的であるがゆえに愛され語り継がれてきた「聖人伝」ですから、キリスト教になじみの薄い日本人にとっても、異文化に触れる興味深い物語となっていることを期待しています。

 混迷の現代社会を生きるわれわれ一般大衆が「聖人伝」で描かれている偉大な聖人たちのマネをすることは難しいですが、人生の窮地でも純真を貫いた彼らの生きざまは参考になります。それこそ、キリスト教圏で聖書と同じくらい「聖人伝」が重視され、読み継がれてきた理由です。

 聖人たちがわれわれに教えてくれるのは、すべての人が「正しいことをしなくてはならない」謎の使命感を生まれながら持っている一方で、「実際にはそれができない」罪悪感も同時に抱えて生きている、という事実です。

 ずっと聖人という人はいませんし、ずっと罪びとだという人もいません。すべての人の中に「聖人」と「罪びと」の要素があり、その中間を揺れ動いているのです。

 聖人ならざるわれわれ大多数の一般人は、聖人たちのように苦境で清廉を堅持することは難しいですが、どんな人の中にも「聖人」と「罪びと」両方の要素が必ずあります。どうせなら「正しいことをしなくてはならない」衝動に逆らわず素直に従う「聖人の時間」を少しでも長く持てたほうが、人生は、より豊かになるかもしれません。

 拙著『どろどろの聖人伝』が、あなたの中にある「聖人」と「罪びと」両方の要素を再認識し、ご自分の「聖人の時間」をより大切にしたくなるひとつのきっかけとなれば、こんなに嬉しいことはありません。

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