練習のための試合
それは、試合から一夜明けた12日も変わらなかった。
「アダム君が優勝して喜んでいる姿とかを見るとすごく嬉しいなって思って。だから、それぐらいほんとに自分自身が、結果に対する気持ちとか、競技に対する闘争心とかっていうのが、今薄いんだろうなっていうのは思いました」
宇野の中で、ある“逆転現象”が起きているという。
「練習自体が僕はすごく好き。日に日に良くなっていくし、一つの目標に向かって全力で過ごしてる日々っていうのは楽しいものだなって思います」
「試合のために練習を頑張っていたものが、『練習のために試合がある』っていう感じに変わったんじゃないかな。だから、あんまり試合に楽しさを求めなくていいのかなって」
そして、最後には世界王者としての矜持を見せた。
「ショート、フリーともにジャンプ以外を頑張ろうとした姿勢は久々の感覚だったので。『ここからプログラム全体が良くなっていくな』っていうのが確信に変わった試合でした」
「今後引退したとしてもスケートに関わっていくことはたぶん間違いないと思う。自分のためにも、そしてみんなのためにも、スケート界を盛り上げられる方向にうまく自分が立ち回れたらなとは思ってます」
ジャンプと表現の両立は、決して簡単にはいかない。だからこそ、その挑戦にはやりがいがある。
(朝日新聞スポーツ部・安藤仙一朗)
※AERA 2023年11月27日号

