白旗を掲げて避難する人たち(ロイター/アフロ)
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 激化するイスラエルによるガザへの攻撃。その背景にあるものは何か。ジャーナリストの土井敏邦さんと慶應大学教授の錦田愛子さんが語り合った。AERA 2023年11月20日号より。

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土井敏邦(以下、土井):イスラエルですが、なぜここまで苛烈な攻撃を続けていると思いますか。

錦田愛子(以下、錦田):ネタニヤフ首相は「ミスターセキュリティー」と呼ばれ、治安管理を高めることで支持率を高めてきた。そのネタニヤフが治安管理に失敗、多大な被害を招いた。これはもう、ハマスを徹底的に封じ込めるというパフォーマンスをしないと国民世論が許さないでしょう。非合理的なまでにガザの人たちを殺し続けるのは、イスラエルの世論へのメッセージだと見ています。

土井:「モサド」や「シンベト」などイスラエルの諜報機関、軍、そして政府の大失態です。莫大な金を提供されている諜報機関を持ちながら、なぜ10月7日の前兆を読み取れなかったのか。国民の怒りはすさまじい。ハマスの壊滅に失敗したら、もう政権は持たないというネタニヤフの危機感が、異様なまでの殺戮に結びついていると思いますね。

 ただ、「イスラエルはガザをどうするつもりなのか」について、ガザのパレスチナ住民の中では二つの見方があるそうです。一つは「ハマスは完全に殲滅される」。もう一つは「ハマスの軍事部門は完全に抹殺するが、政治部門は残すだろう」と。イスラエルにとって、ハマスとパレスチナ自治政府による「パレスチナの分裂状態」は実はとても好都合なのだと。

錦田:その面はたしかにあると思います。ただ、今回はハマスがあまりに多くのイスラエル人を殺し過ぎたので、後者を選ぶのは難しいかもしれません。実際にイスラエル政府は「ハマスを統治能力および軍事能力、両方の面でガザ地区から消し去る」ことを目標に掲げています。

 ただハマスの最高幹部であるハニヤや政治部門のリーダーであるミシュアルはカタールにいます。彼らが残る限り、組織としてハマスは存続してしまう。もし仮に、彼らを殺害するところまで実現できれば、ネタニヤフが今後、政治家として生き残れる可能性はあるかもしれませんが、きわめて困難な、想定上の話にとどまると思います。

土井:ハマスを殲滅したその後、ガザをどうするか。イスラエルは何を考えているのでしょう。

錦田:11月5日にアメリカのブリンケン国務長官がヨルダン川西岸を訪問し、パレスチナ自治政府のアッバス議長と会いましたが、その際にアッバスはガザの統治に意欲を示しました。ただアッバスは高齢で、かつ支持率も低い。イスラエルとしては任せるには不安がある。

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