延江浩(のぶえ・ひろし)/TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー(photo by K.KURIGAMI)
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 パリ、ヴァンセンヌの森にあるカルトゥーシュリ(旧弾薬倉庫)で、老若男女、国籍も異なる総勢110名の劇団員たちが集団創作を続けている。それが伝説の「太陽劇団(テアトル・デュ・ソレイユ)」。ずっと観たいと思っていた。業界の先輩たちが斬新過ぎて忘れられないと言っていたのを覚えていたから。

太陽劇団の来日公演のポスターはコチラ

「文楽の手法を用い、演者が黒子に操られる人形になり、心の深いところを突いてくる。とにかく度肝を抜かれた」と。それは1000年前の東洋を舞台にした「堤防の上の鼓手」という演目だった。

 「東京芸術祭 2023」で彼らが22年ぶりに日本で上演すると知り、最後の一席に滑り込んだ(東京芸術劇場)。

 演出は劇団創立者で革新的な演出で現代演劇の旗手と称されるアリアーヌ・ムヌーシュキン。今回の出し物「金夢島(かねむじま)」は彼女が以前訪れた新潟・佐渡島から得た構想を固めたものだという。

 病に伏し、ベッドに横たわる女性の夢の中に架空の島が出てくる。それは「金」の「夢」の「島」と書く「金夢島」。島では国際演劇祭で町おこしを目指す市長派と、カジノを中心に据えたリゾート建設で一儲けをたくらむ資本家集団が睨み合いを続けている。

 アリアーヌは20年、佐渡へ旅をしようとしていたがコロナで叶わず、しかし、転んでもただでは起きぬアリアーヌは島で出会った人を登場人物のヒントとし、歌舞伎や能、狂言、盆踊りの要素を取り入れながら想像力を膨らませ、今回の上演となった。

 佐渡島はかつて金が採れた場所だった。金を取るか、人間性を大事にするか。マスコミと悪徳弁護士。謀略と権力と嘘。永遠の課題が金夢島に厳然と横たわっている。

 夢とうつつを行き来する柔らかな視点で、グローバルなテーマを手がける太陽劇団だが、視座はあくまで「個人」にある。

「主人公が病んでいるとしたら、それは世界がそうだから。大きなことを語るには小さなことから始めるのが大切」と主宰のアリアーヌは語っている。

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忖度などどこにもない