新型コロナに加え、インフルエンザが流行期に入るなど感染症が広がる中、全国的に処方薬が不足している。一体、何が起きているのか。AERA 2023年11月13日号より。
【写真】医薬品の供給状況が記されたリスト。「供給停止」や「限定出荷」の文字が並ぶ
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製薬会社などで作る日本製薬団体連合会の8月の調査によると、処方薬全体の約23%、3988品目が「供給停止」や「限定出荷」となり、安定的な供給が難しい状態だ。さらに10月に発表された日本医師会の調査では、医療現場での医薬品不足が深刻化し、医療機関の9割が「入手困難な医薬品がある」と回答。特にせき止め薬とたん切り薬の入手が難しく、半数の医療機関が、発注しても納品されない医薬品があると回答した。
不足している薬の多くはジェネリック医薬品だ。薬は、ある企業が新しい「先発医薬品」を開発し、一定程度時間が経つと特許が切れ、さまざまな企業が同じ成分の薬を製造できるようになる。これが「ジェネリック医薬品」と呼ばれ、先発医薬品に対して「後発医薬品」とも言われる。
ジェネリック医薬品の特徴は、主成分は同じだがゼロから開発する必要がないため、価格が安いこと。薬代を引き下げることで医療費を抑制しようと、国主導の積極的な利用推進の動きもあり、ジェネリック医薬品は、現在処方されている薬の8割を占めるまでに広がっている。
そのジェネリック医薬品が、なぜここまで深刻な供給不足に陥っているのか。発端は2020年、ジェネリック医薬品メーカーの小林化工が製造していた水虫などの治療薬に、睡眠導入剤が混入していた不祥事だ。健康被害が出た患者数は240人以上にのぼった。自治体や第三者委員会が同社の調査に乗り出すと、製造や試験の工程で国が承認していない手順を取っていたことが次々と発覚した。
さらにその後も、大手の日医工をはじめ、計九つの製薬会社で不適切な製造手順や品質管理が続々と明らかに。各社は回収や生産停止を続けており、その余波が供給不足という形で表面化した。医療経済や医薬品政策に詳しい神奈川県立保健福祉大学の坂巻弘之教授は言う。
「問題を起こして薬を安定供給できなくなっているメーカーと同じ成分の薬を作っている他のメーカーに、注文が殺到する事態が起きています。ところが一気に注文が来てもさばき切れず、結果的に、問題を起こしていなくても出荷停止に陥ってしまう。こうした連鎖によって、出荷停止が拡大しています」