レトロブームが続くなか、ポケベルやプリクラなど平成の懐かしい「平成レトロ」も注目を集めている。平成レトロの魅力はどこにあるのか、レトロブームの背景には何があるのか。AERA 2023年11月6日号より。
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若い世代にも広がるレトロブーム。レトロと言えばつい昭和を連想しがちだが、実はもう「平成レトロ」という言葉も生まれている。「平成レトロ研究家」で『平成レトロの世界 山下メロ・コレクション』の著書もある山下メロさん(42)は、「ファンシー絵みやげ」と呼ぶ昭和から平成への過渡期に販売されていた土産物や、平成以降のポケベルなどの商品、計3万5千種類ほどを収集。「平成の文化」の素晴らしさを発信している。
もともと10代の頃から、トンビコートやキセルなどの大正文化や、昭和レトロに惹かれていた山下さん。最終的に、昭和最後の9年間にあたる「1980年代」の魅力にハマった。
「80年代の魅力は軽薄さ。景気がいいからこその余裕から生まれた文化です。でも、2000年頃に起きた昭和ブームでは『三丁目の夕日』的な世界観だけがもてはやされ、80年代の軽薄さはなぜか『くだらない』と除外されていたんですね。すごく悔しかった」
その頃、「80年代なんか」と馬鹿にしていたのは、80年代を青春時代として過ごし、文化を享受してきた人たち。山下さんは自分が通ってきた時代を認めない姿勢が許せなかった。
「それを反面教師にしたから、いまの活動があります。僕は90年代、つまり平成を青春時代として過ごしてきたから、そこときちんと向き合い、文化を伝えていこうと思ったんです」
便利さへの反動
山下さんにとっての「平成レトロ」の魅力は、若者主導だったことだ。たとえばポケベル。昭和の時代からビジネスツールとして使われていたポケベルを、バブル崩壊後、若者がコミュニケーションツールとして「使い変えた」のが90年代だった。
「当時、働く世代からの押しつけじゃない流行、みたいなものを作った象徴がポケベルです。プリクラもそう。サービス提供側の思惑を超えた使われ方を若者が生み出していった。バブルが崩壊して働く世代がイケイケ感を失った、そのポッカリ空いたところに女子高生たちがイケイケにやれる状況が生まれ、ルーズソックスの進化も生まれた。当時、『ウチら』という言葉がはやりましたが、大人世代からの押しつけではなく、まず『ウチらが楽しい』ことを優先する。それがバブル崩壊後の時代に輝きを持ったんだと思います」