山下さんは「記憶の扉のドアボーイ」を自称している。「価値のあるものとして、平成に目を向けてほしい」とその魅力を発信することで、「あ、記憶の扉が開いた!」と言われることも増えた。すごく嬉しい、と話す。
「『便利さ』も行きつくところまで行きついた感があります。最初から便利過ぎると、もう心が動かないですよね。タイパが叫ばれるいまの時代、たしかにケータイもなく待ち合わせていた不便な時代に戻りたくはないでしょう。でも、効率重視ではなく手間のかかることだからこそ、感情を揺さぶられることがある。無意味で無駄な時間を使うことこそが、人間の幸福なんじゃないか。そういう『便利さへの反動』のような時代の空気が、レトロブームの背景にはあるのではないかと感じています」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年11月6日号より抜粋