ニューヨーク・タイムズやニューヨーカーが報じたハーベイ・ワインスタインの性的暴力にしても、週刊文春のジャニーズ問題にしても、最初に報道をするのは、訴訟リスクもありさまざまな困難をともなう。他の記者たちも記者会見に出ていたずらに騒ぐのでなく、自らそうした記者会見を開かせるような報道をやってほしいと思う。

 ちなみに、端緒となった少年の相談にのり14週にわたってキャンペーンを取材・執筆した文藝春秋の社員は、後に週刊文春や文藝春秋の編集長を歴任した島田真(まこと)。現在は執行役員の職にあるが、この騒動で何社からも取材申し込みがあったが断っている。その理由は

「最初のキャンペーンに全てが書かれてあるから」だそうだ。

 勇者は語らず。

 
下山進(しもやま・すすむ)/ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文春文庫)など。

AERA 2023年11月6日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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