──今回のゴジラは新デザインですか。
そうです。西武園ゆうえんちのアトラクション「ゴジラ・ザ・ライド」(21年オープン)を手掛けた時のゴジラをベースにバージョンアップして作りました。
日本のゴジラの姿勢っていうものがあるんですよ。直立して、首がまっすぐ伸びている点がそう。“神様兼怪物”というところが、和製ゴジラのはずしてはいけないポイントです。ハリウッド版のゴジラは前に傾いて、戦う気満々のモンスター。自分で言うのも何なんですが、やはり、ゴジラは日本製がいいですよね。
──海外での上映もあります。どんな抱負をお持ちですか。
予定の館数を見ると、ゴジラって世界的なスターなんだなと思う。日本が生み出したものの中で、かなり上位にいる世界に通じる大スター、キャラクターなんだな、と改めて感じますし、根本的な部分で、日本人が作ったゴジラは、見たことのないタイプだと思うんですよ。ハリウッド版のゴジラとは違う和製ゴジラを感じてもらえればうれしいです。
ゴジラ=祟り神
──日本人にとって、ゴジラとは何でしょうか。
ゴジラの鳴き声って、最後に「エンッ」と上がる。切ないですね。明らかに破壊者だけど、核の犠牲者でもある。そのせいか、撃退シーンでゴジラが可哀想と思う人もいるという、不思議な存在です。
怪獣と戦う時代のゴジラには、めっちゃかわいいのも出てきます。一方で、人々のダークサイド、世相のネガティブな面、怒りを背負って出てくる初代のようなものもある。核兵器の開発競争や大震災の発生などで、時代の空気が不穏になる時、皆が思っていることが「怖いゴジラ」という形で表れるのだとも思います。本作の制作中も、いろんなことが起きて世の中が悪くなっていく感じとすごくリンクしてしまいました。
今回のゴジラも強烈な怒りを背負っています。世の中の不安が頂点に達したからこそ、これほど怖いゴジラ映画が誕生したのでしょう。
作ってみて思うのは、ゴジラ映画とは神事ではないかということ。祟り神が現れ、神は周囲をめちゃくちゃにしますが、最後に鎮まってもらう。荒ぶる神を鎮める神楽を奏するように映画を作っている、とすら思ったほどです。
祟り神を鎮めてくれる国だからこそ、ゴジラはよりによって日本に出現するのではないかとも思います。
常に世界を取り巻く不安はあって、世界情勢も変化していて、その中で、ゴジラ映画を神事とするならば、今後も時折、祟り神の鎮めの儀式を厳粛に執り行わないといけないでしょうね。
ゴジラは終われないのです。
(構成/著述家・米原範彦)
※AERA 2023年10月30日号