哲学者 内田樹

 哲学者の内田樹さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、倫理的視点からアプローチします。

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 大学の理事をしているので毎月一度神戸から上京する。理事会そのものは2時間ほどで終わる。「並び大名」のように畏まっているだけで、一言も発さない日もある。それだけのために東京-神戸を往復するのももったいないので、なんとかその前後に仕事を入れるようにしている。

 旧知の翻訳家池田香代子さんからネットテレビ「デモクラシータイムス」に出てくれないかと頼まれた。いいですよと答えて、そこで言いたいことを言ったら、来月からも来てくれという話になった。それを聞いた新聞記者の望月衣塑子さんから、うちのスタジオにも寄ってくださいと言われて、今度は尾形聡彦さんと彼女がMCをつとめるArc Timesにも出ることになった。

 さて、私はいったいいかなる立場を代表するコメンテーターとしてお声がけ頂いているのだろうか。おそらく世間からは「ちょっと変わったことを言うリベラル派言論人」辺りに位置づけられているのだと思う。自民党と維新をずっと批判してきているし、共産党の候補者の推薦人になっているし、『若者よ、マルクスを読もう』というような本も書いているから。でも、私自身は自分のことを「右翼」だと思っている。天皇主義者で、「権藤成卿論」を執筆中で、滝行と禊に勤しみ、武道を教えて生計を立てている人間を「左翼リベラル」とはふつう呼ばない。

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内田樹

内田樹

内田樹(うちだ・たつる)/1950年、東京都生まれ。思想家・武道家。東京大学文学部仏文科卒業。専門はフランス現代思想。神戸女学院大学名誉教授、京都精華大学客員教授、合気道凱風館館長。近著に『街場の天皇論』、主な著書は『直感は割と正しい 内田樹の大市民講座』『アジア辺境論 これが日本の生きる道』など多数

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