『コンプリート・アット・ニューポート1956+10』デューク・エリントン
『コンプリート・アット・ニューポート1956+10』デューク・エリントン
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 よく「ジャズはむずかしそう」という声を聞く。デューク・エリントンに対しても「むずかしそう」という声がしばしば聞こえてくる。たしかにジャズにせよエリントンにせよそういう面があることは否定できないが、実際に多くの人がジャズやエリントンを聴き楽しんでいることを思うと、ジャズもエリントンも、想像されているほどにはむずかしくはないのではないかと、その昔ジャズもエリントンも「うわーむずかしそうだなあ」と思っていた自分は、いま考える。今回のシリーズの第1回発売に選ばれた2枚のエリントン盤、『コンプリート・アット・ニューポート1956+10』と『三大組曲』は、「ジャズもエリントンも楽しいんだよ!」というメッセージを込めた選盤に思える。そう、ジャズもエリントンも、難解なものもあるけれど楽しいものもいっぱいあるんですよ!

 この楽しくも壮大なる2枚組のアルバムは、1956年7月7日、ロード・アイランド州ニューポートで開かれたニューポート・ジャズ・フェスティヴァルでライブ・レコーディングされたものだが、それだけでは十分な説明とは言えない。たしかにエリントンはその日、ニューポート・ジャズ・フェスティヴァルに出演し、熱演に次ぐ熱演が終わるころには日付が8日に変わっていたという。演奏はすべてライブ・レコーディングされたが、エリントンは一部の演奏に満足することができず(なんといっても「超」がいくつもつく完璧主義者ですからね)、翌9日、スタジオで再度レコーディングに臨む。そのなかからベストのテイクを厳選して構成されたアルバムが、スタジオ録音とライブが混在した『アット・ニューポート』だった。

 オリジナル(LPレコード)の『アット・ニューポート』は、A面が《フェスティヴァル組曲パート1~3》(フェスティヴァル・ジャンクション/ブルース・トゥ・ビー・ゼア/ニューポート・アップ)、B面が《ジープス・ブルース》《ディミニュエンド・イン・ブルー・アンド・クレッシェンド・イン・ブルー》という構成。その後CD時代になってからは何曲か追加収録されつつバージョンアップをくり返し、1996年、すべての音源を収録したテープが奇跡的に発見され、ついに『コンプリート・アット・ニューポート1956+10』として最終的にまとめられた。それがこのCDというわけです。ニューポートのライブに「脚注」としてスタジオ録音がつけ加えられたとも、同じソースから複数の異なる魅力をもった名盤が生まれたとも言えるが、ライブとしての楽しみ、迫力、臨場感が何倍にも増幅したこの2枚組CDこそ決定版といっていいだろう。

 さあエリントンをたっぷり楽しもう。おっとオープニングは《星条旗よ永遠なれ》ではないか。ウッドストックではジミ・ヘンドリックスがこの曲を叩きのめしたが、もちろんエリントンはそんな乱暴なことはしない。もうこれだけでライブ感がいっきに盛り上がる。おなじみの《二人でお茶を》や《A列車で行こう》を経て、やがてフェスティヴァルの目玉として用意された大作《フェスティヴァル組曲》が始まる。CDの2枚目に収録されているスタジオ録音も最高だが、このテンポの速いバージョンもすばらしい。背後で聞こえるエリントンのかけ声も雰囲気いっぱい。ソロの最後をしめくくるキャット・アンダーソンの成層圏まで音が届きそうなトランペットには言葉を失う。《ディミニュエンド・イン・ブルー・アンド・クレッシェンド・イン・ブルー》では、ポール・ゴンザルベス(サックス)による伝説の27コーラスが登場する。うーん、すごいなあ。ライブの最後は《ムード・インディゴ》をさらりと。アンサンブルに乗ってエリントンが「ラブ・ユー、マッドリー」と聴衆に語りかける。その声まで「音楽」として響く。追記。《ヒー・ラブド・ヒム・マッドリー》というエリントンに捧げる曲を書き演奏したのは、マイルス・デイビスだった。[次回7/6(月)更新予定]