■少子化政策の不備が世代間対立にすり替えられ

 かつて留学していたフランスの年金制度改革の反対運動をめぐる研究の中で、日本国内の世代間対立の根深さに気づかされた、と話すのは科学史や社会思想史が専門の東京大学の隠岐さや香教授だ。

 フランスでは今年に入ってマクロン政権が年金改革法案を発表。1月にはフランス全土で100万人以上が参加する反対デモがあった。とりわけ不評なのは、現在62歳となっている年金支給開始年齢を64歳に引き上げる改革案だ。現地報道で20代とおぼしき男子学生が「今この改革に反対しておかないと、私たちが手に入れてきたさまざまな権利が次々にないがしろにされてしまう」と訴えていた。

 その動画を見た隠岐さんは、「私たちは完全に分断されていた」と悟ったという。日本で厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられると決まった00年当時の自身の経験と重ね、隠岐さんはこう振り返る。

「当時20代だった私は自分の将来への不安で頭がいっぱいで、年金問題には全く無関心でした。実際には高齢者の貧困率が高いことも知らず、『若者は苦しんでいるが、上の世代は恵まれている』という感情すら持っていました」

 日本の高齢者の貧困率は女性が22・8%で男性が16・4%。いずれもOECD(経済協力開発機構)平均を上回る。日本の超高齢化社会は少子化政策の失敗の帰結でもある。

 本来、少子化政策の不備を指摘しなければならないのにもかかわらず、問題の本質が「高齢者優遇」といった世代間対立にすり替えられる状況はなぜ生じたのか。年金問題を「労働者の権利保障の問題」と捉えるフランスでは、シルバー民主主義といった言葉を聞いたことがない、と隠岐さんは言う。

「フランスで年金改革に反対している人たちには、文化的な生活を維持するための労働者の権利は、いったん手放すと政府によってどんどん奪われていくという危機感が背景にあります。しかし、日本では『労働者の権利』という話を持ち出すと、『左翼』とたたかれるような言論空間があります。こうした分断を乗り越え、私たちは世代間対立という奇妙な対立の構図に落とし込められていることに気づくべきです」

 隠岐さんは成田さんの言説について、従来の「男の子的な文化」との親和性を感じるという。

「『有害な男性性』という概念がフェミニズムにあります。男性たち自身が子どもの頃から『男らしく』しなさいと言われて育ち、こうあるべきという規範意識にとらわれた結果、暴力的になったり、弱いものと自分を区別し、かつ相手を支配しないと自分を保てないと感じたりする意識です。そういう自己認識はエリート校など競争的な環境にいた人ほど持ちやすい。成田さんの言葉に肯定的に反応している層が今もそうだとすれば心配です」

(編集部・渡辺豪)

※AERA 2023年4月3日号

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