ごく普通の高校生だったわたしは、摂食障害と強迫性障害で精神科病棟に入院することになる。「神様」が現れたのは高校1年生のある日だった (c)もつお/KADOKAWA 『高校生の娘が精神科病院に入りバラバラになった家族が再び出発するまで』から

“神様”は食事も制限、突然死してもおかしくない

 突然現れた神様は、「ベンチを触る」という他愛ない命令を下しただけだった。だが、命令は徐々に激しく、複雑にエスカレートしていく。触る順番、手順、回数。中断すればやり直し。無視すれば、ペナルティーで命令が増えた。気がつけば言葉は「触れば悪いことが起きない」から「触らなければ悪いことが起きる」に変わり、家でも外でも目に付いた物をペタペタ触った。食事の制限までが追加され、思うように食べられないようになった。

 勉強も趣味も人間関係も二の次になり、身体はみるみる痩せていき、母親に連れられ心療内科に通うようになる。

 摂食障害の一つである「神経性やせ症(拒食症)」は10代の女性に多く、死亡率は6~20%にのぼる。患者は明らかに痩せていても「痩せている」と認識せず、痩せるために食事量を制限する。過食するケースもあり、嘔吐を繰り返したり、下剤を使用するなどして、体重増加を防ぐことが多い。日本摂食障害学会評議員で、精神科医の宗未来医師によれば、重症の神経性やせ症に対し、「効果の証明された外来治療は存在しない」という。

「推奨されるのは認知行動療法などですが、適応は諸外国で可能な高強度型でもBMI15以上で、日本で可能な簡易版ではBMI17.5(身長160センチで体重44.8キロ)以上とごく軽症のみ。さまざまな試みがなされていますが、多くの患者さんが外来治療では不十分で、特に命の危険性も高い重症者では入院による栄養補給が唯一の治療選択となります」

 他の精神疾患が併存することも珍しくない。もつおさんも、摂食障害と強迫性障害と診断された。だが、診断がついても事態は好転しない。「お願いだから食べてください」と父親に泣きながら土下座されたこともある。それでも神様の命令はやまず、従うことをやめられない。「自分ではどうしようもできない。頼まれても食べられるものじゃないのに」と思ったが、神様の存在を打ち明けることはできなかった。

 学校は休みがちになり、栄養不足で失神することが増えた。限界は感じていた。

「一生こんな状況が続くのは、心がもたない。死ぬ恐怖より、神様との生活が続く方が怖かった。16年間生きてきて初めて死にたいと思い、1日に何度も死ぬことを考えていました」

 神様と出会って半年。身長は160センチあるのに、体重は35キロを下回った。血液検査の数値は医師から「いつ突然死してもおかしくない」と言われるほどに悪化した。そして、とうとう精神科病棟へ入院する──。

 読者が目の当たりにするのは、一人の高校生と家族の日常が猛スピードで変容していくさまだ。(ライター・羽根田真智)

AERA 2023年10月23日号より抜粋

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