明治37(1904)年。福井県の村に暮らす増永五左衛門(小泉孝太郎)は弟の幸八(森崎ウィン)から「村でメガネ作りをしないか」と持ちかけられる。村の誰もがメガネなど知らない時代、最初は反対した五左衛門だが、妻・むめ(北乃きい)の機転で挑戦を決める。だが道のりは険しかった──。映画「おしょりん」の河合広栄プロデューサーに見どころを聞いた。
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福井はいま日本のメガネの95%を生産しています。福井出身者としてメガネ王国だと知ってはいましたが、そうなるまでにこんな歴史があったとは原作本に出合うまで知りませんでした。
私は中学2年のときに両親を亡くし、以後は東京で暮らしてきました。福井とは距離があったのですが、次第に過疎化するこの土地と両親への想いが湧いてきて、なにか恩返しをしたいと思うようになった。そして2018年に福井の列車を題材にした「えちてつ物語〜わたし、故郷に帰ってきました。〜」を製作しました。撮影中はエキストラとしての出演はもちろんのこと、スタッフの宿や差し入れまで福井の方々にたくさん助けられ、公開後には大勢の人が映画館に来てくれた。新聞に取り上げられて観光客も増え、えちてつの臨時列車が出たと聞いて「映画が街を変えられるんだ」と実感したんです。今回、諦めずにメガネ作りにかけた人々の情熱と福井の「ものづくり」を、再び映画のかたちで発信したいと思いました。
物語はかなり史実に基づいています。増永五左衛門さんに嫁いだむめさんが結婚相手を弟の幸八さんと勘違いしていたことも本当です。当時のメガネについては「増永眼鏡」や老舗の「水島眼鏡」の職人さんたちの協力で再現しました。増永眼鏡工場は廃校になった校舎を古民家再生し、いまも見学可能です。増永家は越前市にある重要文化財の「旧谷口家」で、むめの実家は福井市にある「おさごえ民家園」で撮影するなど、今回も福井全市町の多大な協力で完成しました。その土地で暮らすように土地の方々と一緒につくると「血の通った」映画になる気がします。
24年に北陸新幹線が福井・敦賀に延伸します。この機会に福井を訪れてもらえれば嬉しいです。
(取材/文・中村千晶)
※AERA 2023年10月23日号