政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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イスラエルの鉄壁の防空システムをかいくぐったハマス(イスラム武装組織)の大規模なイスラエル攻撃は世界を震撼させました。米国など西側諸国はハマスの「テロ」を糾弾し、イスラエル支持を明らかにしています。そしていま、イスラエルは雪辱を果たすべく、ガザ地区を包囲し、地上戦に打って出る態勢を整えています。
確かにハマスの無謀な攻撃は非難の余地があります。しかし、第4次中東戦争以来、これまでなかったようなイスラエルへの攻撃が、数十倍の報復となってガザの住民を襲うことを承知で、あえてその挙に出たというのは、逆に言えばハマスだけでなく、パレスチナのガザの人々が絶望の中で呻吟(しんぎん)してきたことを浮き彫りにしています。つまり、絶望が彼らを駆り立てていると言ってもいいのです。
ガザ地区は、南アフリカのアパルトヘイト時代のアフリカ系住民の象徴の地ソウェトに、また皮肉にもユダヤ人を隔離したゲットー(ユダヤ人の強制居住区域)にも喩えられるかもしれません。そのような隔離地区に200万人近くのパレスチナ人が押し込められているのです。