人にもなれず、鬼にもなれず

 玄弥は鬼でありながら(※一時的に)鬼を喰う。これは「同族喰い」という許されざる禁忌でもある。そして、人間を食べる鬼を口にするということには、「人喰い」のタブーも含有されている。それを知った兄・実弥の怒りは凄まじい。

「何だとォ? 今何つった?テメェ… 鬼をォ? 喰っただとォ?」(不死川実弥/15巻・第132話「全力訓練」)

 かつて鬼の禰豆子の処遇をめぐる柱合会議の際にも、誰よりも怒りをあらわにしたのは実弥だった。鬼殺隊の長・産屋敷耀哉に対しては、いつもは礼儀正しく接する実弥だが、この時ばかりは強く反論している。実弥以外の他の柱たちも一斉に鬼・禰豆子とそれを庇う炭治郎への否定の言葉を口にしている。

「鬼を庇うなど明らかな隊律違反! 我らのみで対処可能! 鬼もろとも斬首する!」(煉獄杏寿郎/6巻・第45話「鬼殺隊柱合裁判」)

 「鬼」の力を身に宿すことはタブーなのだ。彼らは他の隊士たちのように、血を流しながら命をかけて鬼と戦っているのだが、実弥を筆頭に周囲からは否定的な言葉が投げかけられる。

 鬼にもなりきれず、人にも戻りきれない……彼らは自分の中にある「鬼の力」ににどう向き合うのか苦悶するのだが、その力を使って戦うことをやめることはできなかった。兄を、大切な兄を、彼らはどうしても守りたかったからだ。兄を死なせたくないという思いが、やがて彼らを無謀な戦い方へと突き動かしていく。

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「自死」への暗喩