国の提訴を受け、報道陣の前に姿を現す沖縄県の玉城デニー知事=2023年10月5日午後、那覇市

 一方、今回の玉城知事の判断は後世、どのように評価されるだろう。法廷が舞台の係争は「最終局面」になりそうだが、玉城知事が「沖縄の利益表出=政治家」の立場を選んだ場合、沖縄の民意を背負った玉城知事と政府の確執は続くことになる。またこの先、玉城知事が「行政の立場」を選んだとしても、「辺野古」の行方は依然混とんとしそうだ。

 選択を迫られているのは玉城知事や沖縄県民だけではない。防衛省は着工を起点とし、施設の引き渡しまでは約12年要すると試算。ただし、実際に工事を開始しても、1兆円近くに膨らむ総工費や海底の軟弱地盤など政権は極めて難しい問題に直面することになる。

 沖縄に今、押し寄せている本土の記者たちも、次の展開がないと判断した時点で大波がひくように去っていく。そして残されるのは、10年以上かけて完了するかどうかも分からない埋め立て工事だ。県民はそれをずっと見守ることになる。

 水深70メートルの軟弱地盤に7万7000本の砂の杭を打ち込んで地盤の改良工事をする計画は、専門家からも「技術的に困難」との指摘が出ている。しかし国は「地盤改良すれば建設可能」との姿勢を崩さない。無論、こう主張しなければ「軟弱地盤で建設は困難」とする沖縄県の訴えを認めることになるから当然といえば当然だろう。

 だが、大浦湾周辺には環境省レッドリストで絶滅危惧種(IA類)に指定されているジュゴンなど262種の絶滅危惧種を含む5300種以上の生物が生息する。仮に10年経って、環境や生態系を取り返しのつかないレベルまで改変し、何兆円もの税金を費やして、「やっぱりできませんでした」となっても、その時には首相も防衛省の事務方も裁判長も、判断を下した国側の関係者はその職から遠のいているだろう。そして結局、誰も責任をとらないのは目に見えている。

 安全保障環境が厳しさを増しているのも、中国には警戒が必要なのも、そのために沖縄に基地が必要なのも分かる。それは沖縄県知事をはじめ多くの県民が共有している。沖縄の人が安保情勢に疎いわけではない。ましてや日本の防衛に協力しないと言っているのでもない。むしろ最も貢献している人たちであり地域だ。

 その沖縄のただ一つの基地を何とかしてほしい、という要求を、対話も拒否したまま退けることで本当に将来に禍根を残さないのか。これが日本政府の「解決策」だと言うのなら、あまりにも政治力がなさすぎる。

(編集部・渡辺豪)

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