――質問に対し、淀みなく言葉にしていく姿が印象的だ。「白紙だった自分にメモ書きしてくれた」といった、美しい表現もこの人ならではのものだ。

高橋:常に思考を巡らせている、ということは大きいと思います。デビューしてから「このままではダメだ」と思ったんです。自分のことを自分が一番わかっていて、多くの人々に発信していかなければいけない立場にいるにもかかわらず、発信するだけの能力がないな、と。

 それこそAERAなどの雑誌に掲載されていた著名人のインタビューを読んだり、舞台挨拶の様子を見て研究したりしていました。「言葉選びが綺麗な人ってかっこいいな」と思いながらも、どうすればいいのかわからなかったんです。先輩方のインタビュー記事を読み、「こうして言葉にするんだ」と最初は真似ごとから始めて。言葉の意味自体を調べたりもしていました。それを繰り返していると、言葉が自然と入ってくるようになるんですね。取材などで「その表現、かっこいいですね」と言われ、「よっしゃ!」と心のなかでガッツポーズしていた時期もありますけれど(笑)、いまは自分を客観視しながら、自然と言葉を発することができるようになりました。

 自己満足ではありますが、評価していただけるようになると、周囲が求めてくださるものも自分の理想も高くなっていく。そうしたものを「ちゃんと超えていこう」という気持ちも芽生えるようになりました。

漢字を書くのが好き

――「書く」という行為も、好きなのだと言う。

高橋:学生時代は板書するのがすごく好きで。「漢字を10回書く」といった宿題も大好きでした。純粋に「漢字」が好きなのだと思います。文字を書いていると、一画一画が体に染み込んでいくような感覚があり、自分にとっては、自分の体に影響を与える行為だという認識があります。字から伝わるものって必ずあると思うので。

 割合としては少ないですが、セリフを書いて覚えることもあります。「フェルマーの料理」で言えば、数学に関するセリフは書いて覚えるようにしています。それらは、自分の知識として入れておくべきだと思うからです。「女神の教室〜リーガル青春白書〜」(23年)に出演した時は、法律用語が多かったため、「おそらくこの人物が一度はノートに書いたであろう言葉」として、僕もセリフをノートに書くようにしていました。

 とくに数学や法律に関する言葉は、登場人物たちも過去に勉強し、何度も書いてきたはずなので、僕も勉強する気持ちを持ってから言葉を発したい。「フェルマーの料理」に登場する料理は、器具を揃え、自宅で作ってから現場に臨むようにしているので、それと同じですね。

 今回のように自分とリンクする役に限らず、どんな役をいただいても「いまの僕にオファーしてくださる信頼が嬉しい」と思う瞬間があります。なので、崩した言い方になりますが“なんでも任せていいと思っていただける俳優”になっていきたい。「こいつに投げたら大丈夫だ」。そう思ってもらえるよう、色々な顔を持つ人間でありたいと思います。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2023年10月9日号

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