
最低賃金は全国平均で1004円と、政府が目標とする「1千円」を初めて超えた。だが喜んではいられない。そもそも、日本の賃金が低いのはなぜか。有効な対策は。AERA 2023年10月9日号より。
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日本の賃金は伸び悩んでいる。
経済協力開発機構(OECD)のデータなどを元に、政府がG7各国の実質賃金の推移を調べたところ、1991年を100とすると、2020年に米国は約147、イギリスは約144。対して、日本は約103にとどまる。
他国の実質賃金が上昇する中、日本の停滞が際立っている。なぜか。
経済学者で一橋大学の野口悠紀雄名誉教授は、「日本企業の生産性の低さに要因がある」と指摘する。
「生産性とは稼ぐ力、正確に言うと付加価値です。企業は付加価値から賃金を支払っているので、付加価値が増えていかなければ賃金は増えません。高度成長期では付加価値は伸びましたが、1990年代の初めごろに頭打ちになりました」
日本が生産性を上げることができなくなったのは、80年代以降、世界経済が大きく変わったからだという。中国が工業化に成功し、それまで日本がつくっていた工業製品を自前でつくれるようになった。90年代になるとアメリカでIT革命が起き、製造業から情報産業に大きく変わった。

都市と地方の賃金格差、最大で年間約42万円
この時、日本も構造改革に踏み切らなければいけなかった。だが、日本政府はこうした政策をとらず、2000年代初めごろから円安に誘導する政策を取り、円安による価格競争で対抗したと野口名誉教授は語る。
「円安により輸出企業の利益は上がりましたが、企業は何もしなくても自動的に利益が増えるため、技術革新する努力を怠りました。その結果、生産性が上がらないので賃金も上がらず、人材の海外流出が起き、人材の確保が難しくなりました。こうして足腰が立たなくなったのが、今の日本です」
最近は、物価高に加え、ガソリン代の高騰も人々の家計を直撃する。
東日本の地方都市に住む、保育園に通う2人の娘を育てるシングルマザー(33)は嘆く。
「ガソリン代が痛いです」
5年前に離婚し、派遣社員として工場で週5日働く。時給は1100円で、月の収入は手取り14万~15万円。