ファミリーコンピュータ専用コントローラー「パワーグローブ」のサイト画面
ファミリーコンピュータ専用コントローラー「パワーグローブ」のサイト画面
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 懐かしい特撮番組やアニメでは、手をはじめとした身体の動きでさまざまなものを操作する場面が出てくる。「鉄人28号」のリモコンではなく、「マジンガーZ」の操縦でもない、ロボットとの一体感を味わうことができる夢の操作方法だ。だが、それは番組の主人公がやることであって、テレビのこちら側では、そのカッコいい姿を眺めているだけだった。

 だが、転機が訪れる。1983年、任天堂が「ファミリーコンピュータ」を発売した。テレビの中の登場人物やロボット、戦闘機を、自分で操れるようになった。しかし、不満もあった。操作するのは十字キーとABボタン……それは「鉄人28号」のリモコンと同じようなものだ。頭の中で思い描いたような動きができないのを、はがゆい思いで眺めていたものだ。

 そして、「思うように動かせない」というユーザーの気持ちを満足させようと、さまざまなコントローラが登場する。ゲームセンターと同じスティックを搭載したコントローラや連射機能を搭載したコントローラだ。ただ、これらはやはり「鉄人28号」のリモコンでしかなかった。

 1990年、ついに待ち望んでいたコントローラ「パックス・パワーグローブ」が登場する。あの死神博士=天本英世氏が出演するCMで華々しくデビューしたのだ。右手に装着して使うコントローラは、アメリカのマテル社(当時のゲームオタクならば、この社名だけでニヤニヤしてしまうだろう)が開発、日本ではパックスコーポレーションがライセンスを得て販売した。

 加速度センサーなどが普及していない時代、パワーグローブは超音波センサーを搭載して手の動きを読みとっていた。小指を除く4本の指の動きと、腕の動きを読みとって、例えば、ボクシングゲーム「マイクタイソン・パンチアウト!!」であれば、手を突き出すとちゃんとパンチを出してくれる。

 また、14通りの操作がプログラムされており、通常のボタン操作も可能だった。説明書には「操作性が大変微妙なため、使いなれるのに何日か練習が必要です」と明記されている。ゲームに慣れる前に、まずコントローラの操作に慣れなければいけないのだ。

 さらに、普及への大きな障害となったのが価格だ。ファミリーコンピュータ本体の定価が1万4800円(83年当時。90年頃は実勢価格が1万円前後)に対して、パワーグローブはなんと1万9800円! 親にねだって買ってもらうには高価すぎる。パワーグローブを買うお金で、ソフトが4本買えたのだ。パワーグローブは少年たちに衝撃を与えたが、実際に手にした人は思ったほど多くはなかった。

 アメリカのストップモーションクリエイターである、ディロン・マーキー氏は子どもの頃に遊んだパワーグローブに今も魅了されており、パワーグローブを改造、アニメーションソフトの操作をパワーグローブでできるようにした。他にもミュージックビデオで、ギミックとしてパワーグローブを登場させているアーティストは多い。

 “早すぎたウェアラブル”に、ようやく時代が追い付いてきたのかもしれない。

(ライター・里田実彦)