やがて週末起業のようなかたちで寺院経営について相談を受けるようになり、独立することに。そうした井出さんのキャリアと人柄が本書の構成にもあらわれている。供養の意味を考えながら、現実に役立つアドバイスが盛り込まれているのだ。
「本の冒頭では、生後2カ月の長男を亡くしたときの自分の経験を書いています。呆然自失しているときに、懇意にしている住職に相談し、家族と自分がゆっくりと最後の時を過ごせました」
長くはない始まりの文章が、読む側の胸を打つ。井出さんは「お寺に息子のお弔いをお願いしたのは、人生の中で最良の選択の一つだった」と振りかえる。
「供養というと約束事があって、それに従うものだと考える方が多いかもしれません。けれど実際には家族の形だけ違う供養があっていい。ただ納得のいく供養を選ぶためには、あらかじめ家族で話し合い、要望や考えを確認しておく必要があります」
日本には春秋のお彼岸やお盆など、家族が集まる習慣がある。日常の会話のなかで自分たちにとっての供養を考えるとき、本書は気持ちを後押ししてくれるだろう。
(ライター・矢内裕子)
※AERA 2023年9月18日号