着道楽は裏地に凝る。裏技といえば奥義の一。秘蔵っ子は表に出さない。そういえば……。裏表は上下ではなく並行関係にあると気づかせてくれたのが本書である。
列島の日本海側をかつて裏日本と呼んだ。明治以降、太平洋側諸都市が鉄道網整備を追い風に経済活動で先駆けたのに比し、遅れた地域との意味合いで慣用された。差別的として1970年代には駆逐されて久しい用語を著者はあえてタイトルに掲げている。
「裏」とは何か?その実相に迫るべく日本海沿岸各県を訪ねた旅の記である。雑誌連載(2012~14年)の19編に加筆、改題したものだが、筆は、歴史、文化、自然、高い幸福度を示す指数とともに衣食住を含む風土の総体に及んで濃密。
冬季の厳寒豪雪に育まれた陰翳に富む幽玄な裏地ぶりが描出される。一瞬、今春の北陸新幹線延伸開業の祝い旗を振るか?とも。しかし、否。著者は例えば沿岸部に立つ数多くの原発を見逃さない。負の横顔を見据えながら「裏」とは何かを問うのだった。
※週刊朝日 2015年5月8―15日合併号