米中貿易摩擦が激化する中、中国は2021年6月、反外国制裁法を可決したが、同法には、「中国が外国から不当な制裁や内政干渉を受けたら、その関係者たちの国外追放や入国禁止、中国国内にある資産凍結、中国企業との取引中止などで対抗できる」と規定するだけでなく、「外国政府による不当な制裁に第三国も加担すれば、中国はその第三国にも報復できる」と明記しており、こういったところからも中国が貿易摩擦を対“米国”から“米国とその同盟国や友好国”に舵を切っているようにも思われる。そうなれば、今後中国側の対日認識もいっそう厳しくなり、日本を狙った貿易規制をいっそう仕掛けてくる可能性がある。中国側は現に、バイデン政権の要請をのむ形で対中規制を実行に移した日本へ強い不満を抱いている。

イーロン・マスクを習政権が熱烈歓迎した理由

 しかし、中国が米国や日本などに対し、過剰な対抗措置を取れるかは分からない。これが2つ目のポイントだ。今日、中国がどのような対抗措置を取ってくるかに企業の間では不安の声が聞かれるが、中国側にも難しい事情があるように思う。たとえば、仮に中国が厳しい貿易規制措置を取れば、米国側からはそれに見合う新たな対抗措置が取られる可能性があるだけでなく、欧米を中心とする外資の脱中国依存にいっそうの拍車が掛かる恐れがある。7月からは中国で改正反スパイ法が施行され、それだけでも中国に進出する外国企業の間では不安の声が広がっているが、16~24歳の若年層の失業率が20%を超え、経済成長率が鈍化し、3年にわたるゼロコロナ政策で市民の経済的、社会的不満は強まっており、習政権はその矛先が自らに向かうことを警戒している。そのような不安視される経済状況の中、外資の脱中国に拍車が掛かることは何としても避けたいのが本音で、最近イーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏の訪中を習政権が熱烈歓迎したのはその証だろう。

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