そしてそうなってみてつくづく思うのは、ずっと「弱者」のことを他人事と思っていた自分のことである。弱者に優しく。ハイ大賛成。でもそれはあくまで上から目線で、私の問題ではなかった。今になって初めて、それがいかに切実なことか、無力な自分と目を合わせてニッコリしてくれる人がただ一人いるだけで、そのことがどれほど有難く人を救うものかということを知ったのだ。
そしてよく考えたら、これは外国での非日常的な体験にとどまる話ではない。私はこれから年をとっていく。老いれば誰しもが弱者になる。弱者の居場所があることは100%自分ごとなのだ。誰もが苦しい中、弱者を救えという話にはバッシングが起きる時代になった。でも弱者を救うことは他の誰かを救うことではなく、その分自分が損なわれるということでもない。それはいつか必ず「自分を救う」投資であり保険なのだと今更ながらに思う。
◎稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行
※AERA 2023年9月4日号