元朝日新聞記者でアフロヘアーがトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。
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50を過ぎてから、エアビーで部屋を借り見も知らぬ外国に一人で出かけていき、おっかなびっくり「プチ海外生活」をするという長年の夢に挑戦して今もアメリカにいるわけですが、ふと気づくことは、どうも私が顔見知りになるタイプのナンバーワンはホームレス(のような人)ということである。
無論全員と声を交わしているわけではなく、あの人前も見た! と一方的親しみを覚えているだけなんだが、要するに行く場所がかぶる。公園。図書館。親切なカフェ。親切な小売店……言葉が話せず勝手もわからずマゴマゴしていても、そこに行けば邪険にされず、傷つけられず、リラックスできる居場所。いわゆる「弱者」に優しい場所。
そう海外に行くと私はたちまち弱者になる。
日本では当たり前のこと、買い物をしたり、お茶を飲んだり、そんなことの一つ一つにいちいちつまずき相手を苛立たせていると、「そうじゃない場所」「そうじゃない人」が誠に有難く、どうしたってそこへ吸い寄せられてしまうのだ。