ミズーリ前にある「勝利のキス」像。第2次世界大戦勝利に沸くニューヨークで撮影され、雑誌「ライフ」に掲載された水兵と女性を像にした(撮影/高瀬毅)

 広島市が出したプレスリリースに「戦争の始まりと終焉(しゅうえん)の地に関係する両公園」とある。始まりはパールハーバー。終焉の地は広島。この一節が意味するのは、日本軍の真珠湾攻撃で始まった米国との戦争が、原爆投下によって終結したということ。これは米国がかねてから主張している「原爆正当化論」だ。市の捉え方は米国の主張そのものと春子には映る。

「パールハーバーと平和公園は性格がまったく違う。だけど市は協定によって原爆正当化論を認めたことになる」

広島市外からも疑問の声「現地調査した気配がない」

 市の発表を受けて県内10団体でつくる市民団体「G7広島サミットを考えるヒロシマ市民の会」は、6月27日に、市に締結を保留するよう申し入れをした。その中心的団体である広島県原爆被害者団体協議会(被団協・原水協系)の理事長・佐久間邦彦も、原爆正当化を容認するような協定を認めることはできないと怒りを隠さない。

「米国が、大量殺りく兵器を使ったことを被爆者は納得できない。戦争だから何をしてもいいということではないですから」

 協定には、広島市以外からも疑問の声が上がっている。いち早く警鐘を鳴らしたのが、歴史学者で、高校教科書の検定意見をめぐり、教科書裁判を闘った琉球大学名誉教授の高嶋伸欣。

「広島市側が協定締結を前に、現地調査を実施した気配がない」と指摘する。なぜなら、「広島市がパールハーバー国立記念公園の全体像を示す資料をいまもって公表できていないからだ」。

(文中敬称略)(ジャーナリスト・高瀬毅)

AERA 2023年8月28日号より抜粋

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