太田さんがその雰囲気に圧倒された盛和塾の風景。92年5月26日号の「現代の肖像」に掲載された。経営者の卵たちが身を乗り出すようにして稲盛さんの話に聴き入った
太田さんがその雰囲気に圧倒された盛和塾の風景。92年5月26日号の「現代の肖像」に掲載された。経営者の卵たちが身を乗り出すようにして稲盛さんの話に聴き入った

 「会場に集まった塾生の方々が、畳敷きにあぐらをかき、前のめりになって稲盛さんの言葉に耳を傾けている。緊張の糸が張り詰めたような熱意を感じて、私は『これは動けない』と。1、2カットしか撮れなかったのを覚えています。稲盛さんはただの経営者ではなく、精神性を持っている人だと強く感じました」

 この記事を遠く離れたブラジルで目にしたのが、アマゾンの木材を扱う貿易会社を現地で創業した中井成夫さん(81)だった。移住して15年ほど。そのころの中井さんは、国内情勢の変化でブラジルが「世界で随一の借金国」になったことで仕事に行き詰まり、自殺を考えるほど。そんなとき偶然目にした、稲盛さんの「肖像」を、何度も読み返した。「この人なら自分たちの苦難をわかってくれる」。思いを抑えられず、稲盛さん宛てに直筆で思いの丈を書いた。

 ブラジルにも稲盛塾を設立したい、ぜひブラジルに来てほしい――。手紙は編集部を通じて稲盛さんの元へ届き、投函から半年後、盛和塾ブラジルの初開催につながった。

 稲盛さんの生前、盛和塾の海外支部は48に及んだが、初めての海外支部となった盛和塾ブラジルは、こうして誕生したのだった。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2023年8月28日号より抜粋、一部加筆

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