2点を奪われて野手陣がマウンドに集まった。伝令として花井はマウンドに走った。

「0−2から1回リセットして、試合が始まったと思えって伝えました。みんなそこで少し落ち着いた感じがしました。今にして思えば、点を取られたことで目が覚めたのかもしれません。監督の伝令のタイミングもすごく良かったと思います」 

津市役所でのパブリックビューイングでは市民たちが声援を送った

 流れが変わったのは四回。相手のミスをきっかけに1死一、二塁から5番・江川が左前適時打で1点を返して流れは津商へ。五回は2死一、三塁で2番・前田が投前に転がし、俊足を生かして適時内野安打。同点に追いつく。六回は7番・栗谷の中前適時打で勝ち越しに成功した。

 終盤は押せ押せムード。七、八、九回で7安打6得点。満塁でのヒットエンドランや連続セーフティースクイズなど、持ち味の機動力を生かして、追いすがる強豪を突き放した。

「僕らは普段から低い打球を意識して練習してきました。とにかくゴロを打って全力で走って次の塁を狙う。その成果が四回から出たんだと思います。相手投手との波長も合ってきたのかもしれません。体も動くようになってきた。点が入るたびに応援団以外からも歓声が湧いてすごく勇気づけられました」

 地元の津市役所のロビーではパブリックビューイングが開かれ、集まった市民も大歓声を送り、勝利の瞬間は手を上げて喜んだ。この勝利は津市の一大事となった。

「試合後に応援団の前に整列した時、めちゃめちゃ気持ちよかったです。アルプスが揺れていました。人生で一番感動した日かもしれません。野球に捧げた青春の良い思い出です。今は、あの日を超える感動を求めて、公私ともにあの頃と変わらずコツコツと頑張っています」

津   商 000 111 312 9

智弁和歌山 200 000 020 4

(内山賢一)

※AERA増刊「甲子園2023」から