京都といえば「町家」だが、相続税や耐震改修が重荷となり、取り壊しの危機に瀕しているという。そうした古民家を借り受けたり、たまたま流れ着いた京都で事業を始めたりした「よそ者」9組10人を紹介している。ビジネスの成功例を集めたハウツー本では決してなく、それぞれの章が「漂泊」から「定着」への半生を描いた短編集のようでもある。
 静岡県出身でホテルのシェフなどを務めてきた中西広文さんは「人との縁によって支えられてきた」と話す。生ショコラ専門のカフェを開くため、家の中から1904年発行の新聞が出てくるくらい「いつ建ったか分からない」古民家を借りたが、キッチンと水回りの改修で400万円の資金が尽きた。ところが、「もう使わないから」と品の良い調度品をもらい受けることができ、「家を残す」という大家さんとの約束を守ることができた。
 草木染の工房、エスプレッソコーヒー豆焙煎専門店など、いずれも商いの間口は狭い。だが、共通点として、「よそ者」の視点でハンデや失敗をプラスに変え、京都と上手に距離をとっていることがわかる。

週刊朝日 2015年4月17日号