すると、カバンの中から、ハサミが出てきた。しかも、5本も!
これには、さすがにボクも焦ったね。
ちなみに、ちゃんと説明をしておくと、ボクがハサミを持っていたのは、安田大サーカスのネタ中に使う「紙吹雪」を作るため。当時の安田大サーカスのネタには、ツッコミが終わった後で、ボクが紙吹雪をまくっていう一連の流れがあったんだよね。だから、当時のボクは、紙吹雪用の折り紙とハサミが必需品だった。
「5本あった」ことに関しては、さっき前述したように、ボクの「片付けが苦手」っていうのが関係している。当時のボクのカバンの中は、いつもぐちゃぐちゃでパンパン。だから、ハサミをカバンに入れていても、底のほうにあったりすると、見つけられなかったりすることがよくあったんだよね。
そうなると、ボクは、ハサミを「なくしちゃった」と勘違いして、また新しいのを購入するんだけど、またそれも整理せずに、かばんに押し込んじゃうもんだから、次使う時に、またうまく探せずに、また新しいのを購入する、みたいな。そんな、おかしなループが続いちゃっていたんだよね。結果的に、それが5本になっていたってわけ。
だから、ハサミが5本出てきた時は、ほんとに焦った。ボクはそんな自覚がまったくなかったからね。
とにかく必死で、説明したよ。自分が芸人であること、ハサミはネタ中に使う紙吹雪を作るために持っていたこと、ボクのだらしなさが原因で5本もたまってしまっていたこと、などなど。とにかく必死に(笑)。
でも、その警察官の方は、安田大サーカスのことなんて知らないから、まったく納得してくれず、「ちょっと交番まできてもらおうかな」的な雰囲気にもなっていた。「うわ、どうしよう。無実の罪で捕まることなんてあるんだ」って、いろいろとマイナスな方向にも考えてしまって、ボクはパニくった。
そんな絶望に打ちひしがれている時だった。ボクを疑っていた警察官とは、別の警察官の方が近づいてきて、「あれ、もしかして安田大サーカスのクロちゃんですか?」って、ボクに気付いてくれたの!
その方は、ボクらのネタを何度も見たことがあったみたいで、ネタで紙吹雪を使うことも全部知ってくれていたんだよね。だから、ボクを疑っていた警察官の方に、いろいろと説明してくれたんだ。そのおかげもあって、なんとか、その場はおさまった。今、振り返ると、なんとか理解してくれて、ほんとによかったよ。あの警察官の方には、感謝。ほんと、自分のだらしなさには、反省しかないね。しかし、あの緊張感は、えぐかった。一生忘れられない体験だったしん。
(構成/AERA dot.編集部・岡本直也)