博物館に展示しているブリキのクルマの中でも、1950年代に作られた赤いサンダーバード(下の写真)は人気が高く、バッテリー(電池)でヘッドライトとテールランプを光らせ前進します。フリクション(弾み車)動力が主流だったこの時代、バッテリー動力のクルマは高級おもちゃでした。通常の車体からコードが延びてその先に電池ケースがあるというリモコン形式ではなく、車体にバッテリーが内蔵されていて前進するタイプで、ブリキならではの重み、風合い、そして単なるおもちゃとは思えない精巧な作りが、僕らコレクターにはたまらない魅力です。このサンダーバードは輸出用、国内用ともにベストセラーになり、かなりの量が生産されました。

1950年代にブリキで作られた赤いサンダーバードは、博物館でも人気の一台だ(写真/北原照久)

 また、当時のブリキ職人の高い技術によって作られた他のキャデラックやパッカード、リンカーンコンチネンタルマークⅡ、ニューヨーカーなどのアメ車は、美術館に展示されてもまったく引けを取らないほどの見事な出来映えで、まるで美術品のようです。

 国内外のコレクターの間でもこの時代のクルマはとても人気があり、輸出の花形だった当時、貴重な外貨を獲得していました。僕は、そんなアメ車が子どもの頃から大好きで、いつか必ずサンダーバードに乗るという夢を持っていました。その夢は50歳の誕生日に実現! 1956年製のベビーサンダーを手に入れました。

 現在、日本のブリキ玩具を製作する下町の工場はなくなってしまい、とても寂しい想いですが、だからこそ、当時の高い技術によって作られ、今でも輝き続けているクルマなどのブリキのおもちゃを次の世代に残していく、これが僕の使命だと感じています。

北原照久(きたはら・てるひさ)/1948年、東京都生まれ。ブリキのおもちゃ博物館館長。ブリキのおもちゃコレクターの第一人者として世界的に知られ、「開運! なんでも鑑定団」に鑑定士として出演中
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